MAZEUM 2018

  • 京都の街中で生まれた濃厚で刺激的な二日間。
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  • 京都にて3つの寺を含む6つの会場を使用した音楽フェスMAZEUMが11/30、12/1の二日間にわたり開催された。これはベルリン在住の通訳/翻訳家/ライターでありBerlin Atonalのサテライトイベントのディレクターも務める浅沼優子、BLACK SMOKER RECORDS、DJ NOBUといった国内外のアンダーグラウンドシーンに精通する人物によって企画/制作された新たなイベントである。“最もカッティング・エッジな音楽とアートのフェスティバル”と銘打っているだけあり京都のみならず国内全体を見渡しても他に類を見ないほど多様で個性の強いアーティストたちが集結したものとなった。暮らしている街でこのようなイベント開催されるという興奮と大きな期待を抱え足を運んだ。 オープニングイベントとして法然院で行われたスガダイローとSarah Davachiのライブ残念ながら見にいくことができず私のスタートは一日目の夜に行われたMETROでのNaziraによるプレイとなった。カザフスタンのアルマティを拠点に活動する彼女は今回が初来日でありMAZEUMの出演者の中でも日本での知名度は決して高いとは言えなかったが午前一時を回ったMETROのフロアは人に溢れておりそこには未知のものだからこそ触れてみたいというMAZEUMに訪れた人々の強い欲求が渦巻いているようでもあった。そして実際にインダストリアル、アシッドを中心としたNaziraのパワフルなミックスはこれから始まる二日間が刺激に満ちたものになると確信させるに充分なものであった。   二日目は極楽寺、誓願寺、UrBANGUILD、OCTAVEというそれぞれ趣の違う4つの会場を使用し行われた。初日に使用された老舗クラブとして世界的な知名度を誇るMETROは勿論のこと、音楽のみならず舞踏や演劇など様々なパフォーマンスが毎夜行われているUrBANGUILD、ヒップホップ、ハードコアパンクのイベントも数多く行われるOCTAVEと会場も京都のアンダーグランド・シーンにとって最重要と言って差し支えない場所が選ばれている。ほとんどの出演者がこの日に登場したわけだがまず私が惹きこまれたのはOCTAVEに出演したANTIBODIES Collectiveだ。OCTAVEのすぐ近くでヒト族レコードというレコード屋も運営する音楽家/DJのカジワラトシオとダンサー/振付家の東野祥子を中心とするパフォーマンス集団。定期的に大規模な公演を行っており、京都のアヴァンギャルド・シーンにおいて重要な意味を持つ西部講堂にてAlvin Lucierの来日公演の企画や灰野敬二との共演を果たすなど京都における前衛の歴史の再発見と更新を行っている集団といえるだろう。
    カジワラがモジュラーシンセから繰り出す電子音と吉田ヤスシの過度にエフェクトされたヴォイスパフォーマンスによって不穏な雰囲気がつくりだされるなかで防塵服のような白装束を纏った東野祥子、ケンジルビエンらダンサーたちのパフォーマンスは自分が普段“ダンス”と認識しているものに比べて生々しく時に恐れさえ感じるようなものであった。しかし終盤二人の演奏がより一層スリリングに展開しダンサーたちの動きが激しさを増すにつれ彼らから飛び散る汗やちょっとした筋肉の動きにまで目が奪われ最初に感じた不穏な空気や恐怖は興奮へと変化していく。彼らのパフォーマンスは異端として捉えられるかもしれないが視覚と聴覚の両者に刺激を与えるその様はそれこそAlvin Lucierのような実験音楽/電子音楽の先人たちが作り上げてきた系譜の最先端にいるように感じた。 日が落ち暗くなり始めた極楽寺ではEM Recordsから新作をリリースしたばかりの大阪の電子音楽家7FOのライブがスタートしていた。大きな天蓋が吊るされる極楽寺の堂内には紫がかったライティングも施され幻想的でサイケデリックと呼ぶにふさわしい空間が産み出されていた。7FOの和楽とダブ、サイケ、レフトフィールドなエレクトロミュージックが融合したようなサウンドとの相性は抜群で彼の為に用意された会場なのではないかと錯覚するほど。このまま極楽浄土の世界に浸かっていたかったが空間現代 feat.THE LEFTYを観るため後ろ髪をひかれつつ再びOCTAVEへと移動した。 恐らく今夜限りのコラボレーションになるライブはまず来年Stephen O'Malleyが主宰するIdeologic Organからリリースされる予定の新作に収録されるであろう新曲を空間現代のみで演奏しその後THE LEFTYの二人が参加する形でスタート。空間現代はこれまでもECDやMoe and Ghostsといったラッパーと共演しておりそこではそれぞれが自身の曲を同時に演奏するというスタイルが用いられていたが、この日はバンドの演奏にJUBEとKILLER-BONGが恐らく即興的にラップを乗せそれに呼応するように空間現代の演奏も僅かではあるが即興的な要素も含み変化していく。完成度という点では今までのコラボレーションに及ばないがカオティックに加速していくパフォーマンスは貴重な共演という特別感も相まって満員の会場に大きな興奮をもたらしていた。2016年に東京から京都に拠点を移し、外というスタジオ兼ライブハウスを構え現在の京都の音楽シーンで大きな存在感を放つ空間現代。そしてMAZEUMの仕掛け人の一角を担うBLACK SMOKER RECORDSの中心人物たちによるユニットTHE LEFTYの共演は今回のイベントを象徴するものであり今夜の大きな山場の一つであった。
    ライブ終了後、昨晩のMETROから刺激的な音を浴び続けさすがに疲れを感じたので少し休憩を取りつつgoatに備え早目にUrBANGUILDに移動する。実際中に入れなかった人もいたようで関西はもちろんのこと国内でライブを観られる機会も少なくなった彼らを待ちわびている人の多さを実感した。ライブは2部構成のような形になっており前半はマリンバをメンバー四人で囲みSteve Reichや高田みどりを彷彿とさせる流麗なミニマルミュージックを展開させる。その後それぞれがベース、ドラム、サックス、パーカッションへと楽器を持ち替え『On Fire』『std』というメンバーチェンジ以前の既存曲へと移行する。メンバーチェンジ前のgoatはギターとベースが常にミュート演奏を行うという彼ら独自のルールを設けていたが、現在の編成ではギターの代わりに躍動的なパーカッションが加わることで以前の禁欲的な演奏からよりソリッドで野性味溢れる演奏へ進化を遂げていた。見るからに以前と大きな変化を遂げた前半部も含め自らで作り上げたルールを壊すことも厭わないその姿勢は痛快で何より今後このバンドがどのような変化を遂げるのか一層期待が膨らむパフォーマンスを見せてもらえた。 goatのライブ終了後はそのままフロア後方でスタートした行松陽介のDJに移行。この時点で深夜のOCTAVEを除く全てのプログラムが終了していたがフロアの人は全く減らずむしろDJブースを囲むように密集し、まるで地下のクラブにいるような感覚になる。このgoatから行松への流れは数年前の大阪ではお馴染みとも言うべき光景だったが両者ともに国内外の大きなステージに立つことも増えた現在となっては貴重なものとなった。このタイムテーブルを見るだけでも主催者側の両者への強いリスペクトがうかがえそしてそれに応えるようにTシャツを早々に脱ぎ捨てた行松のプレイは熱を帯びていった。
    本イベントはDJや曲単位ではなくライブ全編を通して観なければ全容を把握することが出来ないような音楽性を持った出演者が多数の中サーキットイベントという特性上、細かくタイムテーブルを確認し移動しなければいけないのは正直ストレスに感じる場面も何度かあった。さらに今回会場として使用されたMETRO、UrBANGUILD、OCTAVEのキャパシティーは恐らく300名程度、UrBANGUILDはこれよりさらに少ないと思われるが京都でこれ以上のキャパシティーを持ちさらにイベントの趣旨にも合致するクラブ/ライブハウスはほとんど見当たらなくなってしまう。今後MAZEUMが京都で継続的に開催されるのであれば会場選びも課題の一つになるだろう。とはいえ極楽寺でのプログラムなどには海外からの観客の姿も多く見受けられたし、またBLACK SMORKER RECODSが主催者として全面的に参加したこともあり出演者も集まった観客もエクスペリメンタル~ヒップホップまでジャンルに縛られない幅の広さが感じられ、それが個人的には居心地がよくタイムテーブルや会場のキャパシティーに感じる多少のストレスを充分吹き飛ばしてくれた。なによりカッティング・エッジな指向性を持つアーティストたちが一つの街にこうして一挙に結集するさまはやはり圧巻であった。 イベント開催前に配信されたDOMMUNEでも触れられていたように京都は裸のラリーズや村八分、MAZEUMにも出演した佐藤薫率いるEP-4などを生んだ街でありそうしたバンドたちが残した影響は今も色濃く残っている。同時に本稿でも触れたANTIBODIES Collective、空間現代や外といった新たな存在がそういった歴史とも時に交差しより複雑な様相を呈している。今回MAZEUMが京都で開催されたのはこのような状況を象徴する出来事でもあったと思う。今後もMAZEUMが長く定着し京都の音楽の歴史を更新し、より先鋭的でより刺激的な未知の表現が産み出されることを期待している。 Photo credit / Kai Maetani, Yoshikazu Inoue, Eizaburo Sogo
RA