Rural 2018

  • 魅力的なフェスティバルが、Jane Fitz、Batu、DJ Nobuらと共に10周年を祝った。
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  • 今年で10年目を迎えるフェスティバルruralが、去年に引き続き、長野県佐久市の山の中で開催された。会場は山頂にあるキャンプ場で、とりわけ山の頂上に設置されたメインステージからは、非常に素晴らしい景色を見渡すことができる。遠くに広がる周囲の山々の天辺を眺めていると、まるでおとぎ話の世界にいるような気分になった。エントランスの隣りにある、メインステージに比べると小規模なインドアステージでは、寝る間も惜しまないオーディエンスに向けて、音がノンストップで鳴っているようにプログラミングされていた。今年は1500人以上の来場者が参加したとされており、日本の中でも規模の大きめなエレクトロニックミュージックのフェスティバルと言えるが、それでも未だに、ファミリー行事のような親しみやすさを感じた。参加者の全体の平均年齢は、他の似たようなヨーロッパのイベントに比べると幾分高いように見られるが、例によって会場内では、子供達が走り回っていた。 僕はChris SSGのオープニングセットを見るところから今回のアドベンチャーをスタートした。彼はMidori TakadaとLafawndahの新しいコラボレーション・トラック"Le Renard Bleu”でスタートし、数曲のポップなトラックと、時折ボーカルものを交えながら、ドローンとドリーミーなアンビエントを主体としたセットを展開した。それは、彼が冗談めかして「ビッグルーム・アンビエント」と呼ぶ音楽スタイルを築き上げ、次のIntergalactic Garyに向けて完璧なムードをつくっていた。Garyはスペーシーなレコードの数々で、晴れた午後の時間を和らげた。続くBroken English Clubは、フルートとマイクを使ってパフォーマンスをし、彼の声が山々の間に激しく響き渡っていた。次のアクトへの調整には唐突なペースチェンジが必要だったが、Nobuに代わる頃には皆が準備万全となっていた。日本でNobuのプレイを見る時はいつも特別である。セットの間中、オーディエンスは歓喜に溢れ、騒しい程でもあり、彼の名前を叫んだり歌ったりしていた。 後に僕は、メインステージとインドアステージをつなぐ道の途中にある、インスタレーションアーティストMirror Ballersによるデコレーションエリアを通り過ぎた。美しくライトアップされたエリアは、暗く霧に包まれた山と素晴らしいコントラストを創出していた。Antenesが始まる頃には、山頂を覆う雲が自然のスモークマシーンとなり、Nobuから引き継いだ彼女は、BPMを少し上げ、完全に自身の世界観に浸ったプレイをしてみせた。その後のAkiko KiyamaとEnaは、ゆっくりと展開する、トリッピーなアンビエントのライブセットを披露した。
    次の日の朝はruralのレギュラーであるSapphire Slowsがオープニングを務め、Gunnar HaslamやAtom TM、Robert Aiki Aubrey Loweなどのトラックをプレイしていた。ある時、彼女の幼い姪がステージ上によたよたと歩きながら登場した。彼女は笑みを浮かべて、左手で次のトラックへとミックスをしながら、その子を右腕に抱きかかえた。この束の間の出来事は、周囲へ影響を与えたに違いなかった。翌日にかけて、子供達がステージ上を走り回る光景は、日常になっていったのだ。 Vladimir Ivkovicのパフォーマンスは、このフェスティバルに見事ハマったものの一つだった。ゴアトランスをピッチダウンさせたと思わしき彼のセットは、クラウドを汗だくに、そして笑顔にさせていた。昨年に引き続き2度目の出演となったBatuは、DJとしての成熟ぶりを見事に表したプレイをし、Dekaの"Pearl”のNikita Zabelinによるエディットをかけた瞬間を含め、このフェスティバルの中でもベストな内容であった。続いて、今回2度目のセットとなるAntenesが、今度はライブで登場した。その雰囲気は前回のDJセットに比べるとフェスティバル仕様ではなかったものの、多様な種類のマシーンの数々を操りパフォーマンスしていた。次のSvrecaは、日本のフェスティバルでは人気と見られる、シリアスでダークな、じっくりと長時間かけて展開するテクノで、オーディエンスを完全に魅了していた。
    トリッピーさは少なく、よりメランコリックな内容だったのがCaterina Barbieriのライブだ。満天に輝く星空の下に響き渡った、その感情に訴えかけるメロディはその日、メインステージに最高なクロージングをもたらした。山を下ったところにあるインドアステージでは、CHIDAとDJ Yaziのプレイを捕らえることができた。このステージは週末を通して、国内シーンの若手から定評のある才能までをショーケースしていた。 太陽が再び登ると、僕は山頂へと舞い戻った。そこではJane Fitzが心地よさそうに椅子に座り、クラウドに向けてにっこりと笑いながら、ゆっくりとしたレコードの数々をプレイしていた。ruralのレギュラーのWata Igarashiは、より躍動感のあるサウンドへと突き進み、とびきりのとどろくようなテクノセットを披露した。このフェスティバルのクロージングは、SolarとMozhgan。飛ばされるようなトラック、ゆっくりめのビートもの、バレアリック、ピッチダウンされたトランスなどを行き来し、最後はTangerine Dreamの19分に及ぶ大作"Green Desert”で幕を閉じた。緑に囲まれたなかで、昔からの友達も新しい友達も皆がお互いにハグしあい、来年またここに戻ってくることを早くも約束し合っていた。 Photo credit / Yumiya Saiki
RA