Gerd Janson at Precious Hall

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  • レーベルRunning Backのオーナー/DJのGerd Jansonが、2日間にわたりジャパンツアーを行った。東京公演の翌日に彼が登場したのは、日本に存在するクラブのなかでも歴史のある名高いベニューとして知られる札幌Precious Hall。筆者は2016年の移転後に訪れるのは初だったが、ゆったりと寛げる広いラウンジ・エリアとダンスフロアを繋ぐ中間にバーがあり、フロアは暗めで踊りやすい空間となっていた。ラウンジ・エリアにもDJブースとサウンドシステムがインストールされているが、この日はメインフロアのみの稼働であった。 2時過ぎになると、Gerd Jansonがブースに登場。ハウス/ディスコを軸にしながらも、エレクトロな4つウチでディープに攻めたり、ガラージ・クラシックで盛り上げたりと、起承転結のあるプレイを聴かせる。ジャンルレスな奔放さのなかにもドイツらしいエレクトリック感を保ったJansonのDJは、かといってクールになり過ぎず、絶妙にイナたさを感じる選曲センスがあり、このあたりのニュアンスは流石と言うしかない。続いて登場した札幌シーンのベテラン、SeijiもJansonに匹敵するような素晴らしいプレイを繰り広げた。ディスコからディープハウスまで、新旧を問わない幅広い選曲に加え、ミックスに関しては、Jansonの一枚上手を行くスムーズさがあり、フロアの熱気は朝5時を過ぎても冷めず、結局Precious Hallを出たのは朝7時を過ぎた頃だった。 Precious Hallのサウンドシステムは、長年Klipschのスピーカーでフロアを覆うというスタイルだが、相変わらずその鳴りは素晴らしく、どこで踊っても気持ちの良い音圧感がある。加えて少し暗めのフロアが、また音に没頭させてくれるのに一役買っていた。それともうひとつ印象に残ったのは、フロアの温度感が前から後ろまでどこでも同じであること。簡単に言うと、突っ立っているお客さんがフロアにいないのだ。小さいクラブでもない限り、ブースに近い場所から離れるにつれて、踊らずに立っている人になるという傾向があると思うが、Precious Hallにはその傾向がまったく見られなかった。これは個人的な予想だが、広くてしっかりと休めるラウンジとフロアという区分けが、その環境を生みだしているのかもしれない。素晴らしいサウンドに加えて、音楽とお酒を楽しんでいる人たちに、フレンドリーなバーのスタッフ、そしてフロアは本当に踊りに来ている人で溢れているのだから、音に没頭して踊りたい人にとって、これほど居心地が良いと感じる空間はないだろう。この日のメインアクトであるGerd Jansonがブースを降りても、ずっとフロアに残って踊り続けていた人たちが、Precious Hallの居心地の良さを体現していた。
RA