Fasten Musique x Vis Rev Set

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  • ほぼ同時期に誕生し、パーティークルーとして、レーベルとして精力的に活動してきたFasten MusiqueとTresvibes によるコラボレーション・パーティーが開催された。2008年にロンドンを拠点する日本人クルーが中心となって始動したFasten Musique Concrete。2012年にはレーベルを設立しYoshitaca、Ittetsu、Sinob Satosiといった邦人アーティストをはじめ、Monsieur Georget a.k.a Chris Carrier、Sonodub、Romarなど欧州の実力派トラックメイカーの作品もリリース。もはや安定したリリースを行うレーベルとして定着した感がある。Tresvibesは東京を拠点とするDJ Pi-ge、Satoshi Otsuki、Kikiorixの3人により2007年に始動、欧州の気鋭アーティストをいち早く招致するパーティーとして着実に支持を得てきた。さらに2016年にはセルフレーベルVis Rev Setをローンチし、Tresvibesクルーによる楽曲のみならず、DewaltaやSeuil、Nohaといった親交の深いトラックメイカーも参加したEPをこれまでに3枚発表している。両者共に海外経験を活かしつつ、同時期にスタートし国内のパーティーカルチャーに深く根ざした活動をしてきたクルーであり、モダンなミニマル・ディープハウスをサウンドの主軸とする点も共通している。それ故にこの度のクロスオーヴァーも自然な流れと言えるだろう。 開催場所はFastenクルーが「以前から検討していたが、時期を待っていた」と語る蔵前のCielo y Rio。都内の遊び場が渋谷を中心とした23区内の西側に多いこともあって、東東京でのパーティー自体、新鮮な感覚がある。普段はレンタルスペースの5Fをメインフロアに、ルーフトップバーの7Fをラウンジとして使用。両フロア共にPioneer全面協力のもと、ハイクオリティなサウンドシステムを導入。メインはクラブ常設のスピーカーに劣らない抑揚のついたサウンドで違和感なく踊ることができ、かつ隅田川沿いの景観を望むロケーションを楽しむことができた。ラウンジはさらに(個人的ではあるが)めったに訪れる機会のないラグジュアリーな空間で、各DJの選曲を上質なBGMとして楽しみつつ、多くの人々が会話を楽しんでいた。
    到着すると、メインではDJ Pi-ge、Satoshi Otsuki、KikiorixによるTresvibes Soundsystemが鳴りのいいミニマルハウスで場のサウンドと空気を整えていた。一通りフロアの様子を見てから上階のラウンジへ赴くと、近年VENTのメインフロアなどを任されつつ、KoaraでのレギュラーパーティーStreet Smartを手がける新鋭Machikoが一番手としてプレイ。ファンクやソウル、ブレイクビーツをゆるやかなテンポで織り交ぜるセットで着実にムードを創りあげていた。ラウンジは東京の新たなシンボル、スカイツリーを一望できるルーフトップからの眺めも素晴らしく、サンデーアフターでの開催ということもあって子ども連れも多く訪れていた。 メインの2番手Sinob Satosiはよりハウスめのグルーヴへ移行。ダークすぎず、時折爽快なフレーズも挟みながら彼らしいストレートな勢いを感じさせるセットで、特にFresh and Lowのクラシック“New Life”はロケーションと日が窓に差す瞬間も相まって力強く響いていた。続くFastenクルーのYasuは疾走感を引き継ぎつつ、再評価著しいUKテックハウスからLoSoulのクラシックなトラックなど、癖の強いグルーヴを自在に操り熱気を高める。フロアの客数が安定するとキープする選曲へと自然に移行。このように一貫して安定した流れをつくる力量は国内でもなかなか並ぶDJがいないように思える。 ラウンジは、新島でのパーティーにもDJとして参加するなどFastenクルーとは縁が深いWord of Mouthによる繊細なダウンテンポを中核としたセットから、Timothy Reallyクルーの一員でありRainbow Disco ClubのレジデントDJを務めるSisiによる、ひねりを効かせたバレアリックトラックの応酬に。熱気を増しつつもオールジャンルで軽快に場のムードを整えていく。きわどいラインのグッドミュージック。ラウンジのトリはHow High?やPLAnTといったパーティーで欧州の先鋭的なDJを招致してきたRyokei。普段は披露しないヒップホップや、アーバンなブレイクビーツを交えたセットは、ハウスセットの際にも見せるムーディーでエモーショナルな感覚がより際立っていた。 メインのラストは2回目のTresvibesクルー。Yasuが仕上げたフロアの熱量を保ちつつ、ミニマルハウス中心の選曲でアッパーまではいかない絶妙なテンションを保つ展開。3人のズレのないB2Bは、余計なディープさを挟み込む隙間もない純粋なグルーヴの奔流を生み出していた。ラストはKikiorixによるThe Reese Project a.k.a Kevin Saundersonの隠れた名曲“Direct Me”でドラマティックに締めくくった。
    メインはPioneerの最新型のシステムとREALROCKDESIGN+YAMACHANGによる照明演出もあってレンタルスペースとは思えないクオリティのフロアが出来上がっていた。もちろん中盤から後半にかけては上下階ともに多くの人が訪れていた。ラウンジはSisiとWord Of Mouthというベテランの妙技はもちろん、普段はテクノ・ハウス中心のDJが多い新世代のMachiko、Ryokeiがパーソナルな音楽観を見せるようなセットを聴けたのもなかなか無い体験ゆえに楽しむことができた。 Tresvibes、Fasten Musiqueともに欧州の実力派を招致してきたパーティーだが、この特別篇の出演陣は日本人のDJ、特にメインは各クルーの所属DJが務めあげている。それは各アクトが充分にフロアを担う実力と実績が備わったという表明とも言えるだろう。また、Fasten MusiqueクルーはageHaの特設スペースや伊豆七島の新島にてパーティーを企画するなど、飽和状態が続く東京で常に抜け穴となるような新鮮なパーティーメイクを続けている印象がある。今回のロケーションもなかなかパーティーでは訪れる機会が少ない東東京で、なおかつ普段はレストラン・バーや結婚式などで利用される場所。「少し背伸びしたかも」とFastenのスタッフは笑って語っていたが、記憶に残る一日をつくるための、妥協のない一手のように思える。蔵前へ向かう路線を調べる瞬間や、初めて降りる駅から会場へ向かう道のり、浅草へ流れて〆の一杯を楽しむひと時まで、余すことなく満喫することができた。それも含めてこのパーティーは特別な一夜であった。 Photo credit / orgamic
RA