Elektron - Digitakt

  • Published
    Jul 14, 2017
  • Released
    June 2016
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  • 全ての機材はそれぞれ独自のロジックと言語を備えているが、Elektron製品のそれらは非常に特徴的だ。Elektronのドラムマシン、シンセ、サンプラーなどの機能は非常に奥が深く、それぞれのポテンシャルをフルに引き出すためには本気で取り組まなければならない。経験豊かなプロデューサーでさえもその圧倒的なボリュームに辟易してしまうことがある。実際に触りながら学んでいく機材が存在する一方、Elektronの製品群はマニュアルを完読して全機能を学ぶことを求めてくる。しかしこれは、トラディショナルな機材に膨大なパワーを詰め込むために支払わなければならない代償だ。Elektronの製品群では、シーケンスのワンステップがひとつのユニークなイベントになり、トリガーの確率変更がパターンやフレーズのバリエーションを無限に生み出す。また、サウンドもクリアで柔らかく、パンチもあり、さらには立体的だ。よって、多くの人は我慢強くワークフローを学んで問題なく扱えるようになったあとも新しい機能やサウンドを学び続けることになる。 最近まで、Elektronが打ち出してきた製品のほとんどはフラッグシップクラスだった。その大半は1,000ユーロ(約12万5,000円)以上の価格が設定されており、多くの人が手を出せないエリートツールという立ち位置だった。しかし、Digitaktはその流れに変化を加える製品だ。なぜなら、比較的手を出しやすい価格が設定されているからだ。770ユーロ(日本国内参考価格:8万4,900円)というその価格は、それでも我々の多くにとっては大きな決断が必要になるものだが、Elektron製品の中では最も手を出しやすい。しかも、Digitaktは “スピード” を意識して生み出された機材だ。もちろん、機能は相変わらず大量だが、作業効率と即時性が高まっているように感じられる。要するに、DigitaktはElektronの製品群の中で我々に対して最も寛大な機材なのだ。 シンセシス(音声合成)機能を削除してサンプルだけを音源として使用するDigitaktは、Elektronの他の製品よりも機能が特化されている。OctatrackやAnalog RYTMのような奥深さは感じられないが、ワークフローがスピードアップしており、クリエイティビティをアシストしてくれる。サンプルのタイムストレッチ機能は存在せず、アナログ回路も搭載されておらず、サウンドもモノラルしか扱えないが、筆者がこれらを欠点に感じることはなかった。むしろ、自分のアイディアを(一般的なサンプルを使った時でさえも)、スピーディな形で未知の領域に踏み込ませることができる点に驚かされた。
    正直に言えば、上記のようなクリエイティビティの多くは他のElektron製品でも確認できる機能群がもたらしてくれているものだ。しかし、簡略化されたワークフローが大きな違いを生み出す。ジャムをしながらシーケンスを組み立たり、パラメーターの変更を実験したり、パターンをセーブしたり、ミスしてもすぐに元に戻したりできるので、スムースかつ自由にアイディアを形にできる。勢いに乗った時にクリエイティビティ溢れるインプロを重ねていったり、躓いた時に元のパターンに戻ったりできるのも、ライブパフォーマンスでは非常に重要だ。 このような特徴はDave Smith Tempestを想起させた。Tempestには、各インストゥルメントのエンベロープやフィルターなどのパラメーターを同時にコントロールして変化させる機能とその変化を1回のUNDOで元に戻せる機能が備わっているため、激しくて奇妙なサウンドをブレイクに使用したり、激しいドロップで終わるビルドアップを生み出したりできるが、Digitaktもほぼ同じで、トラックを維持しながらパラメーターを自由に変更できる一方、ボタンひとつで設定をリロードできる。しかも、サンプルセレクトのようなパラメーターにも適用できるので、全てのインストゥルメントを同時に他のサンプルにスイッチしてサウンドをがらりと変えることもできる。Digikartではこのようなトラック全体のパラメーター変更が非常に面白いサウンドの創出に繋がるケースが非常に多い。また、そのようなサウンドをスピーディにセーブして、ビートのバリエーションとして残しておくこともできる。 また、Elektron独自のパラメーターロックと条件付きロックを組み合わせると、シーケンスにパワーとダイナミックな音楽性を加えられるようになる。パラメーターロックは各サウンドの各ステップに複数のパラメーター設定をアサインできる機能で、たとえば、AMPエンベロープやフィルターカットオフ、エフェクトの設定をインストゥルメントのステップごとに変えてアサインできる。そして条件付きロックは、そこに可変性を加える機能で、たとえば、あるステップがトリガーされる確率を75%に変更できる。このような無限の可能性がDigitaktのサウンドに息吹を与えている。
    これらの機能は8つのMIDIチャンネルのコントロールチェンジにも対応しているため、コントロールチェンジを受信できる他のハードウェアにもパラメーターロックを適用させることができる。たとえば、長さが異なるパターンを組んだり、各ノートを前後に微妙にずらしてユニークなトリガーのタイミングを設定したり、複数のMIDIトラックの送信先をひとつにまとめたり、LFOのパラメーターをリセットして、スムースなサウンドに突然の変化を加えたりすることができる。Digitaktはワークフローが簡略化されているが、それでもこのような機能を使いこなせるようになるまでにはある程度時間がかかる。しかし、一度慣れてしまえば、Digitaktをスタジオやライブセットの “頭脳” として機能させることができるようになる。むしろ、MIDIへの対応はDigitakt最大の特長と言えるものだ。 Digitaktのサウンドは「クリア」という言葉が最適だろう。キビキビしたサウンドで、トランジェントの存在感をひときわ目立たせてくれる。過去のElektron製品群と同じで、オーバードライブは弱いサウンドや重いサウンドを他のサウンドに馴染ませる助けとして機能し、ビットリダクションをパラメーターロックすればIDMやエレクトロ的な効果をサウンドに加えることができる。サンプリングプロセスもストレスフリーだ。また、デジタルプロセッシングもそこまでキャラクターが強くないため、他のサウンドと上手く馴染ませることができる。古いレコードやYouTubeのクリップ、フィルードレコーディングなど様々なサウンドソースが使用可能で、どのサウンドもハイファイなサウンドに大きく劣っているようには感じない。プロセッシングにもうひと手間加えればその差はさらに小さくなる。また、スタート / エンド / ループポイントの設定時に波形が確認できるのも便利だ。この点については、シンプルにサンプルプレイバックの再生方向を変えながら新しいループポイントを設定するのが、シーケンスをより面白いシーケンスを生み出すベストな方法のひとつだということに気が付いた。また、ごく短いサンプルをループさせてどもるようなサウンドを生み出すグラニュラーシンセシスにも対応しており、LFOでそこにモジュレーションを加えることもできる。 サンプルが全てモノラルで処理されてしまうものの、Digitaktはハイレベルなサウンドデザインツールとして使用することができる機材だ。ビートのプログラミングを念頭に置いてデザインされているが、MIDIシーケンス機能やサウンドエンジンがこの機材をただのグルーヴボックス以上の存在にしている。Digitaktを価格以上の機材にすることを狙っていたElektronは、その狙いを見事に実現した。中心に置かれているアイディアはシンプルで、古臭ささえ感じられるものだが、細かい機能群がDigitaktを新しい機材にしている。 Ratings: Cost: 3.8 Versatility: 4.8 Ease of use: 4.0 Sound: 4.8
RA