Novation - Circuit v1.5

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  • 2015年にリリースされたオリジナルのNovation Circuitは、シンプルな16ステップのグルーヴボックスで、操作性も良く優秀な機材だった。機能はそこまで豊富ではなかったが、むしろそれがこの機材の良さだった。この機材の興味深い特徴のひとつは、操作対象が制限されていない8個のノブだった。シンセのパラメータやサンプルプレイバックのエディットは意図的に曖昧にされており、ユーザー探索型になっていた。NovationはCircuitを、インスピレーションを与える機材、アイディアを生み出す機材にすることを狙っていたのだ。このような制限を加えることはクリエイティビティにポジティブな影響を与える。しかし、Novation Circuitのオリジナルの制限をやや過剰だったと感じるユーザーもいた。 しかし、リリースから今までの18ヶ月で、Circuitには数多くのソフトウェア / ファームウェアアップデートが施されており、Circuitのコミュニティ(FacebookのグループページCircuit Ownersには数多くのアドバイスや機能のリクエスト、フィードバックが投稿されている)からのリクエストが反映された機能や、Novationの開発チームによる新しいツールなどが追加されてきた。よって、シンプルな機材としてリリースされたNovation Circuitは今ではかなり深いエディットが可能なシンセサイザー、複雑なポリリズムが生み出せるシーケンサー、そしてパワフルなサンプラーになっており、当初とは別の機材になっている。よって、このタイミングでの再チェックは妥当に感じられた。 Circuitの全体的なユーザビリティにおける最大の変化は、オンラインベースのソフトウェアが生み出していた。Circuit Componentsを使用すれば、ユーザーは自分のサンプルをCircuit上にインポートし、4つのドラムトラック上で演奏することができた。しかし、このドラムトラックという言葉にはやや語弊が感じられる。というのも、コードやシンセサンプルのロードが可能で、さらには新機能Sample Flipの一部として組み込まれているピッチオートメーションでそれらにメロディを加えることも可能だからだ。また、そのSample Flipを使えば、各トラックに複数のサンプルをアサイン(1ステップに1サンプルしかアサインできないが)して演奏できる。この機能は、複雑なメロディやグリッチの効いたIDM的なシーケンスを驚くほど簡単に生み出すことを可能にしている。
    アップデートが重ねられていく中で、Circuit Componentsの機能はさらに増えていった。最新のCircuit v 1.5のCircuit Componentsは、インターネット接続が必須ではなく、完全なスタンドアロンとして機能するようになっている。また、ユーザーのセッション / パッチ / サンプルや、Novationのカスタムメイドコレクションをまとめた概念PACKが導入されている他、英国東部ダンスタブルに拠点を置くIsotonik Studiosと共同開発したEDITORには、Novaのポリシンセエンジン2基が組み込まれている。EDITORは1ページ内にほぼ全機能が表示される仕様なので最初はやや厄介に感じる。小型ディスプレイを使用しているユーザーはそのサイズに苦しむかもしれない。筆者の13インチのラップトップでは全てを同時に表示することは不可能だった。しかし、多少のスクロールを面倒に感じない人なら大きな問題には感じないだろう。8個のノブはそれぞれ最大4つのパラメータを同時に変化させることが可能で、シンセシス(音声合成)に関する知識がほとんどない、または全くない人でも、面白いパッチを組むことが可能だ。プリセットを選んでいくつかのコントロールを変化させたあと、8個のノブにランダムにアサインしてサウンドを試すという一連の作業が非常に簡単に行える。また、より奥深いエディットに挑戦したい人のために、Isotonik StudiosはAbletonのオートメーションとの連携や、優秀なランダマイズ、パッチ間のモーフィング(Maschine JamのSnapshotとは異なる)が可能なプロバージョンも用意している。このEDITORのようなビギナーやシンセファンの両方を満足させる機能は、Circuitが維持し続けている魅力のひとつだ。 シーケンスはCircuitのパターン作成のメインメソッドだが、アップデートによって機能が大幅に拡大している。まず、現在ではシンセサイザーのシーケンスのステップ数が1~16までの間で自由に変更できるようになっている。また、v 1.4からはこのステップ数の変更は4つのドラムトラックでも可能になった。ステップ数を奇数に設定すれば、全体のサウンドが分かりにくくなる可能性が出てくるが、使用するサウンドソースを慎重に選べば、ワイルドなポリリズムパターンが生み出せるようになる。尚、このようなパターンをDAWにレコーディングしたあとでエディットすれば、パターンを修正することも可能だ。ステップのオートメーションも改良されており、ステップごとのオートメーションをクリアするオプションが備わっているため、レコーディング中に変化をつけ過ぎてしまっても、サウンドを整えることが可能だ。しかし残念ながら、クオンタイズについては16ステップのグリッドラインに固定されているので、サウンドのグルーヴはベロシティとグローバルスウィングの調整に限られている。各ノートを微妙にナッジ(前後にずらす)できる機能が追加されれば喜ばれるだろう。
    一般的で使い勝手の良い改良として挙げられるのは、サンプルとパッチのプレビュー機能だろう。これは非常に有り難い。当然ながらSample Flipと非常に相性が良く、リアルタイム入力のパターン作成を可能にしている。筆者としてはシンセパッチにも同様の機能が追加されることに期待したい。外部MIDIのプログラムチェンジを使用すれば同じ操作が可能だが、Circuitのスタンドアロン使用時にもこの操作ができれば素晴らしいはずだ。また、コンポーネントやCircuit本体のSESSIONを色分けできるようになっているのも非常に便利で、これまではブルーの四角形が大量に並んでいるだけだったインターフェイスがかなりナビゲートしやすくなっている。そしてMIDIとフラクショナルゲートの改良により、CircuitとDAW / アウトボード類との統合性も高まっている。これはCircuitがシンセやドラムマシンの優秀なシーケンサーとして機能できることを示している。 とはいえ、筆者が将来的に追加してもらいたいと感じている部分もまだいくつか残っている。そのひとつがパンニングだ。サンプルをステレオフィールド内に自由に配置できるようになれば、ドラムパターンに命を吹き込んでくれるだろう。また、トラックごとにフィルターがアサインできるようになっても良いだろう。現時点ではマスターチャンネルにしかフィルターがアサインできないので、個人的な経験から言えば、音楽制作時にはほぼ役に立たない。また、異なったエフェクト間のオートメーションも不可能だ。しかし、エフェクトプリセットが異なるSESSION同士を切り替えることが次善策として存在する。ソフトウェアのCircuit Componentsに関しては、サンプルを複数個同時、またはフォルダとしてまとめてドラッグできないため、ロード作業がやや面倒だ。また、長めのループやパッドをロードしたいと思っても、各スロットのサンプルは最長60秒に制限されている。 上記のようにCircuitの基礎部分には大量の改良や追加が施されてきたわけだが、依然として非常に使いやすい機材だ。筆者は、メロディよりもドラムパターンを軸に音楽制作を進めていくタイプだが、Circuitではどういうわけか奇妙な即興メロディのアイディアを探求したい気持ちが生まれる。ユーザーを慣れ親しんだフィールドの外へ押し出し、エキサイティングで新しいアプローチを提供してくれるこのような特徴を備えているCircuitは、スタジオに置かれていて当然な機材のように思える。 Ratings: Cost: 4.9 Versatility: 4.4 Ease of use: 4.6 Sound: 4.4
RA