rural 2017

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  • ruralは2009年からスタートした野外フェスティバルだ。認知度は低いものの、実力のあるアーティストだけを選びぬいた独自のアーティスト・ラインナップに加えて、開催当初は500人限定という規模にこだわったアンダーグラウンドなパーティとして、マニアックなダンス・ミュージックのリスナーたちの間で評価を高めてきている。最近ではテクノからベース系、レフトフィールド、アンビエントまでを網羅したruralとしてのカラーを確立しつつある。そんなrural 2017は長野県佐久市にある内山牧場キャンプ場にて、前夜祭を含めて計4日間に渡って開催された。ここ数年、ruralは1~2年ごとに会場が変えているが、今回のヴェニューは標高1200mを超える高所にあり、山々を見下ろせるメインフロアの景色がとにかく素晴らしく、キャンプエリアとフロア間のアクセスも良いという好環境。快晴から絶景のサンセット、そして豪雨まで、山の変わりやすい天気のなか、大自然とエレクトロニック・ミュージックを堪能できた。   3連休初日ということもあって高速道路の渋滞に巻き込まれ、会場に着いたのは夕方。今年のruralのサウンドシステムはメインがVoid Air Array、サブフロアはPioneer X-Y Seriesの最新機種をインストール、Void & Pioneerという組み合わせはここ数年、ruralの定番となってきている。メインフロアに到着すると、先述したパノラマビューに思わず気分が高揚する。フロアのDJブースに目を向けるとSolarの姿が。昨年ruralに加えて、Future Terrorなどでの素晴らしいセットで、日本でも知名度の上がったSolarだが、アメリカ西海岸独特のサイケデリックなハウスセットは今年も健在で、昼下がりのフロアをグルーヴィーに彩っていた。
    続いて登場したBatuは、ブリストルで活躍する若手だが、UKらしいブラックネスを感じさせる縦横無尽なプレイで、Solarが作ったフロアを引き継ぐようなダンス・セットを聴かせてくれた。昨年はENAとのライブセットが印象的だったFelix Kは、ベースからドラムン、テクノまでを操る器用さを持つが、ここでは硬質なテクノ・セットを披露。ドス黒いサウンドスケープで観客を圧倒したRoly Porterに続いて、いよいよGASが登場。 ruralの特徴としてライティングを極力抑え、音だけにフォーカスしたステージのコンセプトがあっただけに、今回のGASの映像のコラボレーション・ライブというのは前代未聞だ。数十分のステージ転換を経てGASのステージがスタート。複雑怪奇なアンビエント・テクノのリリースで知られるGASだが、同名義で17年ぶりのニュー・アルバム『Narkopop』をリリースしている。ライブは、GASの作品群にも描かれている深淵な森やアートピースをステージ全面に映し出し、オーケストラをサンプリングして加工して幾層にも重ねたレイヤー・サウンドとともに展開していく。GASの重厚なサウンドと、映像のモチーフが一体となり、 VoigtがGAS名義で表現しようとするサイケデリックな美学が明確に理解できた。それに加えて、野外というシチュエーションが彼のステージを後押したのも特筆すべきだろう。GASのライブ中、フロアには霧が立ちこめ、ステージの映像をさらに立体化させて見せてくれた。音と映像、そして自然が生みだしたマジカルな体験は、言葉では言い尽くせないほど感動的だった。GASの圧倒的なステージのあと、踊りたいオーディエンスはサブフロアに流れ、ハウスからテクノまで幅広いグルーヴを得意とするKo Umeharaが、ここではパワフルなテクノセットを披露。キャパシティ2~300人程度のフロアは盛況となった。
    翌日二日目の夜で印象的だったのは、ENAのアブストラクトなベース系のDJセットだ。ENAまでの時間帯はテクノ勢が続いていたが、ENAはガラリとフロアのムードを変え、漆黒の時間帯を見事に演じた。ASCはアンビエントからテクノまで幅広いサウンドを得意とするアーティストだが、ruralではアトモスフェリックで力強いテクノ・セットでフロアの期待に応えていた。昨年に続きライブセットでステージに臨んだWata Igarashiは、ASCの流れを組んでか、かなりアグレッシブなサウンドを構築しつつも、後半では持ち前のクールでストレートなグルーヴを展開する。 そして2日目で最もロングセットとなるSvrecaが登場。昨年のLabyrinthで披露した神秘的なテクノセットは、のちに語り継がれるほど素晴らしいものだったが、今回のruralもそれに匹敵する叙情的なプレイが印象的だった。彼のセットはどこか耽美的でドラマチックな部分があるが、これがGAS同様に自然がもたらした偶然の演出と、見事にリンクしていた。深夜帯は得意のビルドアップさせるようなミキシングでフロアをコントロールしつつ、夜明けの時間帯にふたたびビートを切って叙情的な世界を構築し、その後は雲が何度も駆け抜ける大自然のフロアに合わせ、スピード感のあるテクノを展開。時を忘れて満足げに踊るオーディエンスたちに支えられ、4時間のロングセットを感動的に締めくくる。SvrecaのDJとしての柔軟性の高さを再確認できるパフォーマンスだった。 Svrecaがドラマチックに自分の持ち時間を終えた朝5時、Lena Willikensは難なく自分のサウンドを紡ぎ出す。アシッディなウワ音と少し遅めのBPMをキープしながら、パーカッシブなトラックから民族的なボイス・サンプルの入ったトラックまで、一定のグルーヴをキープし続ける。Svrecaとは対照的に、延々とフロアを踊らせ続けるのがLenaのスタイルと言える。タバコを咥えたまま、自然と足が動き出すようなダンサブルなトラックを次々とミックスしていく姿も魅力的だった。オーディエンスも笑顔でダンスに集中しているあたりからもLenaがいかにDJとして優れているかが伝わってくる。
    そしてラストを飾ったDJ Nobuは、Lenaとも共通する抑制感を効せつつも、テクノならではのクールなセットを披露。これがまた雲上のダンスフロアにピッタリで、晴れ渡ったフロアになびく風のように、颯爽とテクノのビートを紡いでいく。ラストの3時間は、ダンスに熱中するオーディエンスに、Nobuが巧みな流れを作っていくと、フロアは喝采でそれを受け入れるという、DJとフロアの素晴らしい呼応が起こり、4日間にわたるrural 2017を締めくくった。 rural 2017は先述したように、素晴らしいロケーションがGASやSvrecaをはじめとした各アーティストのパフォーマンスに、一期一会な体験をもたらしてくれた。それが間違いなくrural 2017のハイライトと言ってもいいだろう。オーディエンスに関しても、フェスが好きな人種ではなく、音楽を聴きに来ている層が多く、そのせいもあり、フロアは常に良いムードであるのもruralの良い点だと思う。特に今年はマニアな音好きだけでなく、若い世代が増えているのも印象に残った。そして、メインステージのプログラムを総括しても、人選に加えてサウンドの流れなどにおいてもとっちらかった部分が無く、これまでのruralのなかでも最もまとまりが良く感じた。毎年ruralに参加している筆者としても、rural 2017はこれまでのなかでも群を抜いて、質の高い音楽体験ができたと思う。ひとつ要望として言えるのは、ruralは開催場所がよく変わっているが、今回こんなにも素晴らしいロケーションを探し当てたのだから、今後はrural=雲上のダンスフロアがある、内山牧場キャンプ場で開催し続けてもらいたいところだ。
    Photo credit / Yumiya Saiki Yutaro Yamauchi Konosuke Hirai
RA