Elektron - Analog Heat

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  • エレクトロニック・ミュージシャンにとって、低域を削り落とさないハイクオリティなステレオサチュレーター / ディストーションユニットを探すのは簡単ではない。ソフトウェアは優良な製品が数多く出回っているが、ハードウェアはThermionic Culture VultureやElysia Karacterのような、多くのプロデューサーの予算を大きく超えてしまう高価なブティック製品になりがちだ。よって、このソフトウェアとハードウェアのギャップを埋めてくれる最初の企業はどこになるのかと想像し、StrymonかEventideになるのではないかと予想していた人もいるだろう。しかし、2016年11月、ほとんどの人が予想していなかった企業が名乗りを挙げた。スウェーデンの機材メーカーElektronが同社初となるエフェクトボックス、Analog Heatを発表したのだ。 ElektronはAnalog Heatを「ステレオ・アナログ・サウンド・プロセッサ」と呼んでおり、この機材が単なるディストーションとして扱われないように細心の注意を払っているが、スペックを見れば、なぜ彼らがこう呼んでいるのかが理解できる。Analog Heatは8種類のユニークなアナログディストーション / サチュレーションを備えている他、マルチモードフィルター、アナログEQ、エンベロープジェネレーター / フォロワー、そしてアサイナブルLFOも備えている。また、2イン・2アウトのUSBオーディオインターフェイスとしても機能し、内蔵エフェクトをバイパスしてクリーンな信号をレコーディングすることも可能だ。しかも、Analog Heatに接続された機材のサウンドをレコーディングしながら、同時にDAWのサウンドをプラグインとして処理できるElektron独自のOverbridgeテクノロジーにも対応している。Analog Heatがただのステレオ・ディストーションでないことは明らかだ。 とはいえ、Analog Heatの中心に位置しているのはディストーションとサチュレーションだ。8種類のステレオアナログ回路は様々なサウンドシェイプを可能にする。Clean Boostはその中で最もおとなしい回路で、Driveを低く設定すれば透明度の高いサウンド、Driveを高く設定すればオールドスクールなミキシングデスクのようなサウンドを生み出す。一方、High GainやRough Crunchは、よりエクストリームなサウンドを好む人のための回路だ。各回路はDriveの設定に応じてユニークに変化するので、色々と試しながらそれぞれの特徴を掴んでいくのが良いだろう。また、Elektronはウェブサイト上に素晴らしいインタラクティブデモを用意しており、6種類の異なる音源をAudio Heatに通すとどうなるかを聴き比べることができる。実機とこのデモの違いとしてひとつ挙げられるのは、実機では回路を切り替えた際に僅かにノイズが入るという点だ。これはライブパフォーマンスでは厄介な問題になるかもしれないが、Activeボタンを押して一時的に回路をオフにすることで回避できる。
    ディスプレイ下部の2バンドEQは2つの固定された周波数点を中心に増幅と減衰が可能だが、面白いことにElektronはこの2バンドEQのレスポンスとカーブ特性が各回路に合わせて変化するようにカスタマイズしているため、選択した回路によって、この2バンドEQの変化特性が異なってくる。これはOverbridgeの使用時に最も明確に把握できる。OverbridgeではEQカーブがヴィジュアルフィードバックとして表示されるため、Analog Heatが信号に対してどのような動作をしているのかがすぐに分かるからだ。固定されている周波数点もユーザー側でカスタマイズできるようになっていれば嬉しかったが、だからといって、このEQが使えないというわけではなく、7種類のフィルターと組み合わせた時は特に便利だ。
    Elektronの製品群は非常に強力なモジュレーション機能を備えていることで知られているが、Analog Heatもシーケンサーやパラメーターロックこそ備えていないが、非常に素晴らしいパワーを秘めている機材だ。たとえば、LFOとエンベロープジェネレーター / フォロワーは、バックパネルに備わっている2系統のControl Inに接続したエクスプレッションペダルやCVと組み合わせることが可能だ。また、これらの入力はLFOやエンベロープフォロワーの各パラメータを含むほぼすべてにアサイン可能なので、Analog Heatはモジュラーシンセオーナーにも魅力的な製品に映るはずだ。 Analog Heatをネクストレベルの機材にしている最大の特徴は、Overbridgeに対応しているという点だろう。ヴィジュアルフィードバックや外部入力信号とDAWの信号を同時に処理できる機能など、既にいくつかの特徴を紹介したが、Overbridge対応には更なるメリットがある。その中で最も目立つものは、シンプルにまとめられたプリセット管理とパラメータのオートメーションだが、Overbridgeのプラグイン機能の中で最もパワフルなものは、M/Sプロセッシング(ミッド・サイド・プロセッシング)だろう。これを使用すれば、左右のチャンネルを個別に調整する代わりに、ステレオをひとつの単位として扱い、そのセンター(ミッド)とサイドのバランスを調整することでユニークなステレオ感が生み出せる。Analog Heatは、ミッドとサイド、そしてその両方を調整できるようになっているが、残念ながらElysia Karacterに代表される高額ユニットのような、左右のチャンネルを個別に細かく調整できる機能は備わっていない。また奇妙なことに、M/SプロセッシングはAnalog HeatをOverbridgeのプラグインとして使用している時だけアクセスできる機能なので、スタンドアロンとして使用している場合はアクセスできない。 全体的にAnalog Heatに対してはかなり好印象を持った。非常にユニークなサウンドで、ディスプレイは最高ではないにせよ(Elektronの最新製品Digitaktに搭載されている有機LEDディスプレイと比較すると一層見劣りしてしまう)、機能的には価格に見合った万能性を誇っている。Audio Heatは、気の利いたマスタリングツール、強烈なディストーション、オーディオインターフェイス、そしてDAWでコントロール可能なエフェクトがコンパクトにまとめられたオールインワンパッケージと言えるだろう。 Ratings: Cost: 4.0 Versatility: 4.8 Ease of use: 4.0 Sound: 4.6 Build Quality: 4.2
RA