Nuits Sonores 2017: Five key performances

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  • 15回目の開催となった今回のNuits Sonoresは、同イベントがヨーロッパ圏内でトップクラスのフェスティバルであることを証明してみせた。リヨン各地にある数えきれないほど多くのヴェニューを会場とする同イベントの幅広さは、目を見張るほどだ。このフェスティバルは、リヨンの街そのもののショウケース。フェスティバルに参加しながら、人々は有名な建築物やフランスの食文化に触れることができる。またNuits Sonoresのクラウドは、リヨンが持つシックなヴァイブを映し出しており、彼らの大部分は圧倒的に若く、ローカルで、とんでもなく洒落ている。5日間に渡るフェスティバルには100組以上のアクトがラインナップされ、素晴らしいパフォーマンスがたくさんあった。その中から5組のベストアクトを紹介しよう。 Floating Points Nuits Sonoresのナイトタイム・プログラムの大部分は、Fagor-Brandtの工場跡地を利用した14,000人を収容可能な巨大なコンビナートにて行われた。同フェスティバルがこの会場を使用するのは今回が初めてであったが、スケール、サウンド、照明はいずれもワールドクラス。同ヴェニューの中でも一番大きなエリアに金曜日に登場したFloating PointsことSam Shepherdは、最新のソロライブショウを披露した。最近のツアーでは12人編成のバンドを率い、2015年のアルバム『Elaenia』の妙技を再現していた彼だが、そのパフォーマンスは必ずしも人々を踊らせるような内容ではなかった。今回のソロライブではそれとは対照的に、Floating Pointsのプロダクションのエレクトロニックな面を打ち出した。ツアーで1曲目に演奏していた瞑想的なトラック"Nespole"は、ベーシーとビート主導なバンガーに形を変えていた。また、彼は"Arp-3"と、"Vacuum Boogie"の別バージョンもプレイ。更には新曲も織り交ぜていた。あるいはリリース済みのトラックを、筆者の耳が認識できないほど大幅にアレンジしていたのかもしれない。最後の1曲は"Nuits Sonores"。彼が2014年のフェスティバルで初披露したトラックだ。予想通り、地元のクラウドたちはこの非公式アンセムに大きなレスポンスで答えた。
    Jamie 3:26 デイタイムのメインイベントは、かつて製糖工場だった建物を現在はアートセンターとして使用しているLa Sucrièreにて行われた。3日間のプログラムは、それぞれ違うアーティストがキュレートする。2017年のキュレーターを務めたのは、The Black Madonna、Nina Kraviz、そしてJon Hopkinsの3人。この方法は、あまり有名ではないアクトを数多くの熱心なオーディエンスに紹介する機会にもなる。今回のサプライズヒットはJamie 3:26だった。シカゴのローカルヒーローである彼は、太陽の光が降り注ぐ中庭で、パワフルなパーティーヴァイブスを生んでいた。 Jamie 3:26のスタイルは、明らかにシカゴの伝説的なDJ、Ron Hardyに影響を受けている。("3:26"は、Hardyが所有していたクラブThe Music Boxの住所に因んでいる。) 彼のプレイする音楽は幅広く、アグレッシブなEQ使いは彼のトラックにフレッシュなエネルギーを加える。頭に白いタオルを巻いた彼は、クラシック・シカゴハウスからアフロビート、ディスコ、更には変則的なアシッドまでを投下。それは、経験を積んだプロによる自信を持ったプレイであった。聴き慣れたトラックさえも、彼の手にかかるとどこか新しく聴こえた。ある瞬間、Donna Summerの"I Feel Love"がかかった時、彼は最初のヴァースからハイを切り、しばらくベースドラムだけが脈打つ時間を作り出した。そしてコーラスにヴォーカルの声が戻された時、フロアからは爆発的な反応があった。ストレートなやり方に聞こえるかもしれないが、これを実際に成功させるのは難しい。Jamie 3:26は、同郷の他のDJのように熱狂的なファンがいないかもしれないが、こうしたパフォーマンスを見ると、近い将来それも変わるのではないかと思った。
    Nina Kraviz La Sucrièreのメインルームは、アトモスフェリックな細長い照明が張り巡らされた巨大な白いスペースだ。DJブースの中のアーティストは、汗だくのフランス人クラウドたちに周囲をぐるりと囲まれた中でパフォーマンスを行う。金曜日のヘッドライナーとして登場したNina Kravizは、高速の奇妙なテクノで、激しいムードを生み出していた。 Bill BrewsterとFrank BroughtonによるDJハンドブックの決定版、『How To DJ (Properly)』には"How To Be Great"という章があり、その中で非常に鋭い一文がある。「最高のDJはより良いレコードをプレイする。印象的なレコード、人々がハッと気が付くようなレコードだ。」この日のKravizのセットは、正にそれを体現していた。終始ハードではあったが、ほぼ全て頭から離れなくなるようなトラックだったのだ。特にワイルドだったトラックでは、レーザーのサウンドやチャイム、コンピューターのグリッチ、ジェットエンジン、そしてうなるエレクトロシンセの音などを聴くことができた。彼女がプレイした音楽の多くには、Kravizが手掛ける注目レーベルTripが影響を受けている'90年代テクノとIDMに、ドラマ的な感覚を加えたサウンドが感じられた。手にタバコを持ちながらミックスする彼女からは、自信、そして確かなスター性が溢れ出ていた。最後の15分間、観客たちはNinaの名前を呼びながら、次第にエネルギーを落ち着かせていった。騒々しいドラムンベースで締めくくった彼女。それは、紛れもなくシーンの頂点に立つDJの姿だった。
    Pharoah Sanders Nuits Sonoresは根本的にエレクトロニックミュージックフェスティバルだと捉えられているかもしれないが、そのブッキングポリシーは他の競合イベントよりも多様なのだ。最も大胆なブッキングだったのはおそらくPharaoh Sanders。史上最高のミュージシャンの1人と言っても過言ではない人物だ。彼は、John ColtraneやSun Raの元で経験を積んだジャズのパイオニアであり、ジャズ黄金期の生き証人だ。彼の音楽は美しく瞑想的、あるいはワイルドで、予測不可能でもある。巨大なウェアハウスでFatima Yamahaの後に登場し、76歳の人間がどのようにパフォーマンスをやり遂げるのかは全く予想がつかなかった。結果的に、驚くほど最高だった。 バンドが穏やかに演奏を始める中、Sandersはゆっくり時間をかけながらステージ中央部へとすり足で進んだ。体が弱っているように見えたが、青いサテンのシャツと長く白い髭が、彼に神秘的な雰囲気を与えていた。彼がサックスを吹き始めると、機動力は確かに落ちたかもしれないが、彼の音楽的な技術は全く失われていなかったことが分かった。ディープでスピリチュアルなジャズは万人受けするものではない。その為、セットが進むにつれて席を離れる観客もいた。その後、Sandersはよりトラディショナルなジャズ・バップへと移行し、更にはもっとアップビートな曲を演奏しながらダンスまでしてみせた。そこに残っていた観客は彼の最後の1曲に乗せて手拍子と歓声を送り、セットの終了時間に気が付かないでいた彼は、時間を大幅にオーバーしてパフォーマンスを続けた。リビング・レジェンドというのは、実にマイペースなものだ。
    Mark Ernestus' Ndagga Rhythm Force Le Sucreは、世界最高峰の小箱の1つとの呼び声が高い。ModeselektorとMaceo Plexが数少ないオーディエンスの前でプレイしたクロージングパーティーは、とてもスペシャルなものであった。フェスティバル開催期間中は、いつもの同ヴェニューと似たようなサウンドをフィーチャーしたプログラムも行われており、Henry WuやDJ Spinnaが出演した日、筆者は喫煙所のあるルーフトップから美しい日の出を目撃することができた。しかし、このキャパシティ700人のスペースで今回筆者が見たベストアクトは、Mark Ernestus率いる強力グループ、Ndagga Rhythm Forceだった。 メンバー8人のうち4人のパーカッショニストであり、彼らは西アフリカの打楽器サブラと、ドラムキット、そしてアンプ無しにも関わらずステージ上で一番大きな音を出していた小さな手持ち式のトーキング・ドラムを演奏していた。最初のうちは、このバンドと、Basic Channelの1人としてのErnestusのテクノの過去との折り合いを自分の中でつけるのがなかなか難しかった。しかしあるトラックが15分かそれ以上まで長引いた時、だんだんと繋がりが見えてきた。バンドは深くエモーショナルな音へと展開していった。複雑なポリリズムとセネガルの言葉は聞き慣れなかったが、どういうわけか皆が理解できるような繋がりがそこにあった。最後の1曲では、キーボード担当が超高速のパーカッシブなシンセサウンドを響かせ、そしてドラマーたちがライブとエレクトロニックミュージックの力強い融合を生み出した。Ndagga Rhythm Forceは、唯一無二の必見バンドである。
    Photo credit / Brice Rob - Lead, Floating Points, Pharoah Sanders Marion Bornaz - Jamie 3:26 Gaétan Clément - Mark Ernestus' Ndagga Rhythm Force
RA