Nina Kraviz - fabric 91

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  • Nina Kravizがひとつ前のミックスCD(2015年の『DJ-Kicks』)の制作準備をしている際、彼女の所有するコレクションから数枚の古いレコードが発掘されている。その中に含まれていたのが1998年のExosによる「Grass Hunter」だった。同盤の再発見がきっかけとなって誕生したのが彼女のレーベルтрип。多様でありながら近しい関係のアーティストたちによる、極めてディープで、ときとして回顧的なテクノをリリースするプラットフォームだ。『DJ-Kicks』のリリース以降、より実験的になってきているKravizのスタイルは、彼女がレーベルのために集めてきた大量の新たな音楽と、以前から行っているレコードディギングによって得た音源から影響を受けている。そうして彼女は、リリース時期が大きく異なる音源を使った大胆不敵なスタイルを構築した。『fabric 91』ではそのスタイルが全開に表現されている。このミックスで使われているのは今後трипからリリースが予定されている音源と昔のオブスキュアなレコードとなっており、結果、以前のトラックが最新の音のように、そして、最新のトラックが以前の音のように聞こえるようになっている。圧倒の80分間では、驚き、混乱、そして、喜びをもたらす彼女の力量が最大限に発揮されている。 KravizのDJスタイルを最も端的に言い表すなら、それは「物怖じしない」ということになるだろう。彼女のミックスには規則性がない。ミックスが常にきれいであるわけではないし、テンポや音楽スタイルが一定の調子で進んでいくこともあまりなく、大きく変化する。『fabric 91』で強調されているのはそうした奇抜さだ。その好例として挙げられるのは、Frakによる混沌としたトラック"First Snow In Harlem"が最後のビートレス・アウトロまでプレイされ、そこから、ビートの抜き差しで始まるされるSpecies Of Fishesのトラックへつながれた後、Biogenによる熱狂的なIDMへと続いていく展開だ。こういう奇妙な展開は人によって好まれない可能性があるが、Kravizが行うと荒々しく魅力的なものとなる。これは、ミックスがポストプロダクションで完ぺきに整えられたのではなく、その場の勢いに乗って作られたことを示している。 『fabric 91』では実に41曲ものトラックが80分にまとめられている。この数はScubaによる超人的ミックス『fabric 90』(英語サイト)に匹敵するが、『fabric 90』が複雑につなぎあわされたミックスだったのに対し、こちらは即席でペース変化の多いミックスとなっている。トラックが放り込まれ、15秒以下でミックスが終わる場面もあり、そうしたトラックが独特なパッチワークの一部として使われている。 『fabric 91』のサウンドは、アンビエント的なテクノ、IDM系、オールドスクールなダブテクノ、アシッドなど、予想通りの内容だと言っていいだろう。Unit MoebiusやWoody McBrideといったベテラン勢のトラックに対し、Breaker 1 2 やBjarkiらのトラックが使われている他、強力なロシア産オブスキュアテクノ(Species Of Fishes)、近年のKravizの変化を促しているアイスランド産エレクトロニカ(Biogen)、Kraviz自身によるサイケデリックなトラックも収録されている。ドライなミニマリズム、溢れんばかりの色彩を感じさせるサウンド(PTUによる変種トラック"A Broken Clock Is Right Twice A Day"など)、трипらしさのある幻想的なサウンドコラージュなど、多様な内容だ。Kravizの"You Are Wrong"と、Bjarkiによる起伏の激しい"Denise It Ain't Easy 2"では、奇妙な酩酊感のあるボーカルサンプルが使われており、どちらも本作のハイライトを演出している。 『fabric 91』からはKraviz独自の音楽観が伝わってくる。彼女は昔のレコードを古臭い印象にすることなく新たな視点で提示してみせる。それが可能なのは主に、昔の音源が最新の音源と上手く混ぜ合わされているからだろう。彼女は常に独自の表現を貫いてきた。『fabric 91』はそうした彼女が頑なに築き上げてきた奇妙なスタイルの最新形だと言える。とりわけ象徴的なのが本作のエンディングだ。昨年、Aphex TwinのSoundCloudページから発掘された鮮烈で熱狂的な"Fork Rave"も、他の収録曲と同様、古くて新しく、聞くものを決して飽きさせない。
  • Tracklist
      01. Species Of Fishes - Tak 02. Bedouin Ascent - Ruthless Compassion 03. Woody McBride - TV 04. DJ Slip - Jill's Meth (Side A) 05. Tim Taylor, Dan Zamani, Freddie Fresh, DJ Slip - Iceberg 06. Soren - 19C 07. Leo Anibaldi - Aeon Fusion 1 08. DJ RX-5 - Like A Boogie 09. Nikita Zabelin - Confusion 10. Bjarki - Denise It Ain't Easy 2 11. PTU - A Broken Clock Is Right Twice A Day 12. Orange Juice Man - Huckfuq 3 (Uxi Mix) 13. Birk Brainwash - Deli At Night 14. Breaker 1 2 - Sueno Malo 15. Panasonic - Murtaja 16. Birk Brainwash - Goyfax 17. Beverly Hills 808303 - Acid Planet 4 - A2 18. Kirlian - Porzellangasse Grooves - Groove 2 19. Species of Fishes - Crash Recovery 20. Frak - First Snow In Harlem 21. Species Of Fishes - Bfg9000 vs. Barons Of Hell 22. Biogen - Irrelevant Information 23. Biogen - Lag 38 24. Species Of Fishes - Sh 25. New Composers & Pete Namlook - Tetra 26. Unit Moebius - Radar 27. Nina Kraviz - You Are Wrong 28. Torul V - Denwer 29. Nina Kraviz - Pochuvstvui 30. Mike Henk - Dox-003 Untitled B1 31. Woody McBride - The Power Hour 32. Christian Bloch - Refuse 33. DJ Tuttle - Universe Of Love 34. Woody McBride - Prolonged 35. Drax LTD II - Amphetamine (Air Liquide Remix) 36. Claude Young - Locked 37. Negative Return - First Light 38. Air Liquide - Revelation 39. Automatic Sound Unlimited - Approaching 40. The Detroit Escalator Co. - Fate (As A Chasm) 41. AFX - fork rave
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