A Made Up Sound - Bygones / Peace Offering

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  • Dave Huismansは見過ごされているのではないか。そう思えてしまうときがある。彼と同世代アーティストの多く、すなわち、イギリスのベースミュージックがハウスやテクノと融合し始めた00年代後期に現れたアーティストたちの多くは、現在、毎週末のようにツアーで世界を回っている一方で、Huismansは地道な活動を続けているからだ。それにもかかわらず(もしくは、それゆえに)、彼の作品はかつてなく奇抜に、そして、想像力豊かであり続けている。レーベルA Made Up Soundにとって最後のリリースとなる今回のシングルは、彼の変幻自在な素晴らしい音楽性を再認識する機会を与えてくれるものだ。2009年の始動以降、Huismansの人気作品のいくつかを発表してきたこのレーベルは、音楽的アイデンティティを損なうことなく、予想のつかない方向へと成長してきた。「AMUS009」も同様に予想外の驚きをもたらす1枚だ。今回はその驚きを、これまでで最もストレートな内容でトラックを仕上げることで実現している。 奇抜なアイデアによって見事なトラックを生み出すことの多かったHuismansだが、今回はじわじわとしたアプローチが取られている。"Bygones"や"Peace Offering"というタイトルからは、過去の栄光を賛美するのではなく、むしろ、それを変えていこうとする姿勢がうかがえる。陶酔度の高い今回のテクノグルーヴのムードは抑制されており、リズムはストレートに、そして、メロディはほぼ存在しない状態になっている。"Bygones"では、ミュートしたタム、コンガのループ、劣化させたハイハットといった細部まで作り込んだリズム要素が4つ打ちのキックの周りへ濃密に配置されることにより、躍動する8分30秒の空間が繰り広げられる。おそらくギターの音を大きくピッチダウンさせたものだと思われるコードが使われているものの、そのサウンドは気付かないくらいそっと鳴らされている。Bサイドはさらに抑制されており、リズムが拡散する重低域のとどろきの中をかきわけるように打ち込まれ、その後ろで秋の風に揺れる木の葉のようにシェイカーが単発でたなびいている。3分が経過したころに漂ってくる、か細く浮遊するパッドは、数分後にピッチを変化させ始める。しかし、こうした要素からは大きな展開は生まれない。それに代わり、トラックはメランコリックな迷走状態へと深く沈み込んでいき、徐々にその姿を消し去っていく。
  • Tracklist
      A Bygones B Peace Offering
RA