Renick Bell - Empty Lake EP

  • Share
  • 「音と演奏行為が直接結びついていないとき、どのようにすればパフォーマンスが魅力的になるのか」。これはラップトップミュージックが抱える問題のひとつだ。この問題に対し、ライブコーディングのシーンでは独特な解決方法が取られている。パフォーマンスを行う者が即興でプログラミングを行い、カスタムメイドのソフトウェアに書き込まれるコードがステージ上に投影される、というものだ。アルゴレイヴ(英語サイト)と呼ばれる、アルゴリズムが生成した音楽に合わせて踊るイベントへ行ったことがなければ、Lee Gamble主宰のUIQからRenick Bellが初めて発表する「Empty Lake」の付随映像を見れば、どういうものなのかイメージを掴むことができるだろう。次々と流れていく込み入った文字列と、細胞のように増殖していくBellの奇妙なサウンド。その間につながりを見出すのは容易ではないが、リアルタイムで人間が音楽を鳴らす行為をしているものだと感じ取れる点で、これはDAW上のプロダクションと似て非なるものだ。 本作には生成ソフトによってコーディングされたトラックが5曲収録されており、先述の映像のようなビジュアル要素は含まれていないが、Bellの極めて繊細なサウンドと、ひねりの効いた魅力的なロジックは引き続き保持されている。既存のスタイルに呼応しているようなトラックもあり、特に1曲目の"Trying To Control The Four Winds"は最近の解体系グライムに近い。唯一の違いはBellがそれを異なる手法で制作している点だ(生成ソフトを用いたトラックに相応しいこのタイトルは易経に由来しており、他のトラックも同じく易経からタイトルが付けられている)。しかし、Bellの創造する世界に、既存のものとの類似点を見出そうとしてもほとんど意味はないだろう。同様の未知なる領域を探求してきたのはAutechreくらいだからだ。 意識をかき乱すリズムと頻繁に組み合わされる和音要素は、多方向に解体しているかのように不規則な乱れを発生し、それにより生まれる効果はときとして意識を強く没頭させる。"The Well"のダビーなリズムの底部に蓄積される和音は華やかで流動的な動きをみせ、"Transforming A Fault"はギターのような彷徨う音色を軸に構築されている。しかし「Empty Lake」では多くの場面で要素が詰め込まれ過ぎる傾向にある。例えば"A Deluge"では、粘着質なグリッチ音を鳴らすシンセアレンジと急降下するビートが衝突を繰り返しながら山積されていき、"Surface Waters Flow Together"では、磨かれた金属のようなぎらつく和音に打ち消されないように、変容していくリズムが打ち付けられている。
  • Tracklist
      A1 Trying To Control The Four Winds A2 The Well B1 A Deluge B2 Transforming A Fault B3 Surface Waters Flow Together
RA