Porter Ricks - Shadow Boat EP

  • Share
  • Porter Ricksによる1996年のコンピレーション『Biokinetics』はダブテクノ史における重要作品だ。Basic Channelの作品と並んで、ダブテクノの定義を決定づけたレコードのひとつである。『Biokinetics』に収録された、Chain Reactionからの一連のEPでは、ふたりのドイツ人Thomas KönerとAndy Mellwigによるダブテクノの精神性が精巧な比類なきサウンドデザインに組み合わされた。彼らはMille PlateauxやForce Inc.からも数枚のレコードを発表し、1999年に解散。その後の活動は数曲のリミックスを手掛けるに留まっていた。Könerはサウンドアーティストとなり、MellwigはKevin MartinやGerhard Behlesといったアーティストと共に音楽制作を継続。そして解散から17年の時を経てBerlin Atonalでパフォーマンスを行うために再結成したPorter Ricksは、今回、TresorからEPを発表した。 明瞭度と勢いが増したことを除けば、「Shadow Boat」に収録の3曲は聞いた瞬間にかつての空気を感じさせてくれる。表題曲の序盤、Porter Ricksならではのダブの海へと放り込まれる。"Port Of Call"のような彼らのクラシックスは嵐のようなサウンドを聞かせてくれるものばかりだったが、今回の"Shadow Boat"を聞いても航海中の悪天候に耐えているかのような気分にさせられる。ビートは不安定に感じられ、揺らめくコードが吹きすさぶ。おなじみの泡立つシンセは船体に激しく打ち付ける波のようだ。 逆サイドは少し穏やかになっているが、常に荒波が静まっているわけではない。"Bay Rouge"はゆっくりと起伏を繰り返し、神経質なベースラインとディレイのエフェクトがその揺らぎを保ち続ける。ふたりのサウンドデザインは実に活き活きとしている。根幹は従来のダブテクノかもしれないが、アルミ缶が弾けているようなディレイのコードや、ひび割れてざらついたサウンドは得も言われぬディテールを作り出している。"Harbour Chart"はさらに遅く、酩酊感を増しており、嵐が去った後に漂っているかのようだ。そして思いもよらぬ周波数帯域のサウンドで満たされている。ふたりが手掛けた90年代の作品と同様、「Shadow Boat」においても黙々と拍を刻むリズムと、既存の音を変容させるサウンドデザインのバランスが見事だ。時の経過をまったく感じさせない1枚となっている。
  • Tracklist
      A1 Shadow Boat B1 Bay Rouge B2 Harbour Chart
RA