Oval - Popp

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  • 2010年、Markus PoppがOvalを約10年ぶりに再始動して以降、彼の活動を特徴づけてきたのがミニマリズムだ。隙間を大きく取って細かく作り込んだ『O』(英語サイト)や『Oh』における短編トラック、『Calidostópia』や『VOA』でのボーカルを多用したトラックなど、いずれにおいても輪郭のはっきりしたサウンドが代表的楽曲の中核を成している。Poppが素材をぼかしたり、互いに打ち消し合うようなことはあまりなく、何をしていても音楽の骨格部分を見せようとしているような印象だ。 今回、Poppはその流れをほぼ完全に断ち切っている。本作では刻まれるビートの周りを複数のサウンドのレイヤーが飛び交うことで、高密度の空間が構築されている。ミニマルな要素もいくつか現れているが(Poppはそうやって制作せずにはいられないのかもしれない)、そうした要素の多くは動き回る展開の中へ取り込まれている。小刻みなリズム、脈打つ低音、加工されたボーカル、起伏するアクセントなど、非常に多くのことが起こる場面もあり、この新たな音楽性が目まぐるしく感じられるほどだ。 しかし、『Popp』は難解でもなければ、威嚇的であるわけでもない。むしろ、これまでにOvalが手掛けたアルバムの中でも特に馴染みやすく存分に楽しめるものかもしれない。どの収録曲も楽しげなアシッドトリップのネオン光を思わせる鮮明なサウンドで魅力的に彩られている。さらに今回はレイヴの雰囲気も漂っており、この点についてPoppは大胆にも「クラブサウンドの感性の再構築」と呼んでいるが、『Popp』は暗くじめじめとした室内よりも、陽射しの降り注ぐ野外に適している印象だ。Oval作品のほどんどにはコンセプチュアルな一面があり、Poppによるクラブミュージックの解釈には高次な意味合いがあると考えがちだが、本作の音は純粋に熱狂性を求めているように聞こえる。"ku"での弾けんばかりのメロディや、"fu"の強烈なビート、そして、"mo"のオートチューンをかけたボーカルなど、いずれもストレートなダンスミュージックとなっており、そこに皮肉めいた要素は見受けられない。 『Popp』ではこれまでに聞いたことのあるサウンドが一貫して使われているが、そのサウンドが凡庸な響きになることは滅多にない。今回もPoppのアプローチは独特であるため、収録曲が流れるダンスフロアはそんなに多くはないだろう。とはいえ、『Popp』というアルバムタイトルは文字通りに受け止めていいだろう。つまり、本作はPoppの音楽的個性を別の形で面白く表現していると同時に、追加要素を交えることで実にポップな音楽になっているのだ。
  • Tracklist
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