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  • V.O.による1990年の作品「Mashisa」を作曲/アレンジしたEddie Magwazaについて分かっていることがいくつかある。彼はアパルトヘイト廃止前にヨハネスブルクで活動した才覚あるミュージシャンであり、Sister Monicaの愛称で知られていた。バンドメンバーのふたりVictorとOupaに加え、スタジオパートナーのふたりLucky MatanteとJan Smitと共に制作した『Mashisa』がリリースされたとき、Mashisaはまだティーンネイジャーだった。同アルバムが発表されたのは、バブルガム(1980年代に南アフリカで流行していた、ディスコの要素を取り入れたポップミュージック)からクワイト(90年代に黒人居住区から登場したタフでハウシーな音楽)へ移行していたころで、南アフリカの黒人たちの間で人気を博した、政治色の強いエネルギッシュなダンススタイル、パンツーラの音楽として制作された。MagwazaがV.O.で1枚のレコードしか制作しなかった理由についても分かっている。『Mashisa』がリリースされた直後に彼は銃殺されているからだ。 『Mashisa』は初回出荷枚数が振るわず、売れなかった。しかし数十年が経過し、名曲を嗅ぎあてる遺伝子を持ち合わせたふたりBrandon HocuraとGary AbuganによるプロジェクトInvisible Cityによって発掘されることになった。同作の主要トラックとして"Mashisa (Dub Mix)"がすべからくチョイスされている。このトラックでは、口笛のようなシンセ、ベースライン、スネアのフィル、メロディ、時折挟まれるボーカルといった多様なパートが屈託のない喜びと共に躍動している。HocuraとAbuganによるレコードレーベルInvisible City Editionsで再発された『Mashisa』には、オリジナルの6曲の中から4曲が収録されている。ここでも”Mashisa (Dub Mix)"がベストトラックであることは変わりないが、他の3曲も決しておまけなどではない。"She's My Lady"では孤独なメロディに対し、スウィートな歌詞が綴られている。"Malunde"は多くのイタロ・クラシックスで聞ける叫びにも近いキャッチーなコーラスが歌われるトラックだ。"Mashisa"のオリジナルバージョンは特徴的なフックのパートが抑制されており、先のダブバージョンを親しんできた人に新鮮なサウンドを聞かせてくれる。 再発盤にまつわる情報が魅力的に映る時代となった今、ときどき気にかかることがある。私たちの心をつかむのは音楽なのか、それとも、音楽に付随する神秘性なのか? 『Mashisa』にまつわる物語には紛れもなく説得力がある。しかし、2年前にYoung Marcoが"Mashisa (Dub)"をかけたとき、筆者はそのトラックの名前さえ分かっていなかった。唯一確かだったのは、何度も繰り返し聞きたいと欲する自分がそこにいたことだ。
  • Tracklist
      A1 She's My Lady A2 Mashisa B1 Mashisa (Dub Mix) B2 Malunde
RA