Valerio Tricoli - Clonic Earth

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  • 2014年、Valerio Tricoliは8年ぶりにソロアルバムをリリースし、PANを通じて、おそらくこれまでで最も多くのオーディエンスに作品が届けられた。オープンリールでレコーディングした素材とミュージックコンクレートによる『Miseri Lares』の広大なタペストリーはその範囲網と壊滅的な雰囲気により称賛を獲得し、内省的感情と精神崩壊を中心に構築された同作は彼の最高傑作として称された。エクスペリメンタル・レーベルClonic Earthに提供されたTricoliによる続作では、イタリア音響彫刻家としてのテクスチャーの幅が拡張されており、テープをもとにした電子音響、アナログサンプリング、そして、断片化したスポークンワードにドローンや深く加工された掛け声があてがわれている。 「Clonic Earth」では各サウンドがすぐに消え去り、モチーフが繰り返されることは稀だ。メロディはあまり使われておらず、意図しているようにも思えない。そしてドローンも長く鳴らされることはない。"The Hallowed Receiver"の背景部分はデジタルノイズの大群によって構築されており、崩壊を通じて不気味なアンビエントサウンドに変化していく。続く"Stromkirche Or Terminale"でも同様のノイズが使われているが、こちらはすぐには消滅せず、合唱の声へと発展していく。トラックは方々へと拡散/断片化し、合唱の声が再び聞こえてくると、あくびを押し殺しているかのような動きに変わる。どの要素も損傷しているような印象だ。こうした様々な度合いの苦しみが各サウンドに行き渡ることで、本作にテクスチャーと深みが与えられている。 Tricoliはサンプリングしたり、自ら操作して作ったりした珍しいサウンドの数々を作品上に散りばめている。"Interno D'Incendio"で取り入れられているのは、「自分をおびえさせる」と語る気難しく張り詰めたささやき声だ。トラックはまるで燃え盛っているかのようにパチパチと音を立てながら消えていき、最後に残るのはインダストリアルなパーカッションだ(本作の数少ないリズム要素となっている)。"As For The Crack"では、鼓動する低域や削り出されたホラーメロディ、そして、ベルの音が送り込まれ、溶鉱炉の中で拡散する。そしてサウンドは崩壊し、微かなドローンになるまで分解していく。本作の終わりに近づき、命令を告げる叫び声が遠方から聞こえてくると、トルコの伝統的メロディのようなサウンドがどこからともなく浮かび上がってくる。 「Clonic Earth」の狙いは無常の美を見出すことだ。本作では消え去っていった素材を思い返すのは難しく、何が起こるのかを予測することも不可能だ。そのため、それぞれのサウンドが持つ個性が大事になってくる。目の前で発生する崩壊の中、そうした生命の兆しを探してみたくなる。
  • Tracklist
      01. The Hallowed Receiver 02. Stromkirche Or Terminale 03. Interno D'Incendio 04. Clonic Earth 05. As For The Crack
RA