214 - Fuel Cells

  • Share
  • 2016年、エレクトロはある種の復活を遂げているようだ。その一端はOnur ÖzerやBinhといった、エレクトロの無名なトラックを発掘したり、自らエレクトロを制作するDJたちだ。この流れが再評価なのか、新たな評価なのかは特に問題ではない。これまでもエレクトロは存在しており、一時的な流行り廃りを何度も通過してきた。シェフィールドのCentral Processing Unitは新参のエレクトロレーベルで、2012年にCygnusによるEPと共に発足して以来、Plant43やDMX Krewといったアーティストのトラックを発表してきた。シェフィールドにおけるブリープテクノの歴史や純粋なデトロイト・エレクトロから影響を受けている同レーベルは一貫して良作を届けており、そのサウンドは敬虔なエレクトロファンたちの領域に属すものが多い。 214ことChris Romanはエレクトロシーンにおけるダークホースの典型例だ。2002年以来、シアトルから東へ30分の場所にあるワシントンのノースベンドを拠点に彼は音楽をこつこつと発表し続けている。通常、彼の作品はクオリティが高く、常に適格で、卓越したものが多い。しかし彼が本当に輝きを見せているのはこの1年であり、エレクトロシーン屈指のエキサイティングなレーベルから数々のレコードリリースを果たしている。彼はShipwrecからもアルバムを発表しているにもかかわらず(英語サイト)、あまりにも多くの人に見過ごされている。ダブテクノやアンビエントなど様々なレンズを通じてエレクトロを捉えているRomanだが、「Fuel Cells」が彼の近年の作品と一線を画しているのは、伝統にしっかりと根付いているところだ。そんな本作は余計な装飾のない、素晴らしく堅牢なエレクトロ作品となっている。 長尺の1曲目"Overbridge"はクラシックなエレクトロだ。1曲の中でいかにうまく要素を打ち込んで重ね合わせているのかが表れている。このトラックでは動きのあるパーツを10個使って制作されているようだ。ジグザグにうごめくベースラインなど、ひとつひとつのパーツをじっくりと楽しめる他、ズームアウトして全体を楽しむことも可能だ。同じくロボット的な"Keep Right"はR2-D2がドラムマシンで遊んでいるかのようなパンチの効いたトラックとなっている。 "Fuel Cells"ではRomanのサウンドデザインに対する才覚が輝いている。ベースラインは明快で、その背景をそれ以外の全要素が覆いつくしている。全体が大量のリヴァーブに浸されているアレンジは、ドライで密室的なサウンドを好むエレクトロシーンでは珍しい。このリヴァーブにより、エレクトロの内向きな偏執性に代わって、外向きな仰々しさが表現されている。"Greenbelt"では滑らかなベースラインが硬質なリズムに十分なメロディ要素をもたらしており、ファンク要素を失うことなく、Romanの空間的な一面がさらに際立っている。同トラックからも、「Fuel Cells」がこれまでの良い部分を損なわずに長く楽しめるサウンドを提供していることが分かる。
  • Tracklist
      A1 Overbridge A2 Fuel Cells B1 Keep Right B2 Greenbelt
RA