Arca - Entrañas

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  • Alejandro Ghersi(Arca)の音楽における重要な特徴は不定性と可変性だ。そのため、近年の彼が生み出す素晴らしい音楽が従来のアルバムフォーマットとは違う形で届けられても全く不思議ではない。目のくらむような25分のミックステープ『&&&&&』は(英語サイト)、多くの人にとって、ソロアーティストとしてのArcaを知る最良の作品だった。同作により彼はKanye Westを含むアーティストたちに携わる魅惑のプロデューサーから、ソロアーティストとして注目すべき存在となった。Muteから発表した2枚のいびつなアルバムに続き、Ghersiが再びミックステープのフォーマットで発表した『Entrañas』には、『&&&&&』以降の作品の中でも特に強力な魅力を持った、ひとつの形にとどまらないトラックが収められている。 前作と同様、『Entrañas』(内臓という意味)も14曲のトラックをつなぎ合わせた不安定なサウンドの塊だ。本作は静止しているかのようにゆっくりとスタートする。Ghersiのトレードマークである気色悪く加工したうめき声が存分に使われた後、農場にいる動物の唸り声と鳴き声に置き換えられる。動物の音をパーカッションとして使うだなんて馬鹿げているように思えるが、Ghersiの手にかかれば、身体に訴えかけるサウンドとなる。叩き付ける実験的なクラブミュージックに乗せて歌われるコーラスは、食肉処理場の血塗られた混沌を聞いているかのようだ。 今回、Ghersiのサウンドがいつになくドロドロとしているとしても、角ばった鋭さを感じさせる鮮烈な場面もある。例えば、遅くしたドラムサウンドでどろどろの澱みを切り裂いていこうとする場面があれば、その後には、インダストリアルなリズムが押し入るように打ち込まれ、Madonnaの"What It Feels Like For A Girl"からサンプリングしたCharlotte Gainsbourgのモノローグが、甲高い音色の上に張り付けられるシーケンスを追い越していく場面もある。それはまるで以前のNine Inch NailsがRabitを模しているかのようだ。Mica Leviによる柔らかいボーカルはその周囲の叩き付ける音と対を成しているし、その後に続く偶発的なメロディとパーカッションはAutechreの統制された不協和を思わせる。 『Entrañas』の大部分から感じられるのは、痛み、力、猛威に加え、Ghersiが普段から没頭しているグロテスクな要素だ。そう考えると、Total Freedomの参加は驚きではない。後半部分で使われている発狂した叫び声には、Ghersiらしい不快感と方向感覚の麻痺を彷彿とさせるだけに留まらないインパクトがある。しかし、注意深く耳を傾けてみると、こちらも同様に目のくらむようなノイズに聞こえてくる。その後には、脳裏から離れなくなるボーカルが使われ、不安定な安らぎを感じさせる場面では爆発音が挿入される。この音がお祝いの花火なのか、建造物を破壊する爆弾なのかは分からないが、唖然とさせる雰囲気で「Entrañas」を締めくくるあたりはGhersiらしさを感じさせる。その正体を掴もうとしても、絶え間なく形を変えていく彼の音楽は指先からすり抜けていくのだ。
  • Tracklist
      01. Pérdida 02. Torero 03. Culebra 04. Vicar 05. Cement Garden Interlude 06. Baby Doll feat. Mica Levi 07. Lulled 08. Think Of feat. Mica Levi & Massacooraman 09. Clocked 10. Pargo 11. Turnt feat. Total Freedom 12. Girasol 13. Fount 14. Sin Rumbo
RA