Aphex Twin - Cheetah EP

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  • Richard D. JamesがBPM120以下のトラックを1枚のレコードにまとめて、それを「Cheetah」と名付けた。確かにそうなのだが、実際にこのタイトルが参照しているのは生産完了した90年代初期のレアなデジタルシンセだ。イギリスの同名シンセメーカーによるMS800(英語サイト)はプログラムがとても難しく、機材好きの人たちから「史上最低を争うシンセ」と呼ばれるほど(英語サイト)、望まない音を生み出していた。80年代後半に同機の開発を手掛けたサウンドデザイナーは、同機の内部構造を「奇妙」だと称している(英語サイト)。しかし、「とてもチープな音のローファイ・デジタルによる奇妙さにかけては他に類を見ない(中略)意欲的、実験的、忍耐力のある、もしくは、狂った人に最適の機材」だと言う人もいる(英語サイト)。このことから、JamesがCheetahに魅せられた理由は明らかだろう。彼もまた難解かつ奇妙で、他に類を見ないアーティストだからだ。 収録された7曲はCheetahの複雑に絡み合った特性をそのままにするのではなく、むしろ飼いならしている。熟練の技術で音楽を制約することで『Caustic Window』をリリースして以降のAphex Twin作品の中でも特に素晴らしく予測不可能なトラックを実現している。その理由の一部は少なくともメロウなテンポとまばらで甘美なアレンジメントにあり、例えば、光を放つ"CHEETAHT7b"や、軽快な"CIRKLON 1"に簡潔な優雅さが与えられている。JamesはまるでAaron Funkの催眠性のあるアシッド(英語サイト)というアイデアから影響を受けて、実在のシーケンスに落とし込んでいるかのようだ。本作は『Syro』を構成していたセッションから生まれているように聞こえるが、『Syro』の熱狂的な"陽"に対し、こちらは落ち着いた"陰"となっている。"CIRKLON3 [ Колхозная mix ]"では"CIRCLONT6A [141.98][syrobonkus mix]"の華麗な連鎖反応をいたずら好きの遊び相手として再構想している。そして"CHEETAHT2 [Ld spectrum]"は、じっくりと歩を進める"produk 29 [101]"を夢遊病テクノへ変換している。このように半分ドラッグにキマってかろうじて意識があるようなときでも、Jamesは全く変わらない魅力を発することができるのだ。 もし『Cheetah』に何かが欠けているとするなら、それは多様性だ。Jamesが自分自身を制約すると決めたとき、徹底して制約することにした。例えば、ハイライトの"2X202-ST5"では、強烈なベースラインが1回、8分音符で打ち込まれるシンセのメロディが1回、そして、ドラムマシン以外に使われている素材はほとんどない。EP「Computer Controlled Acoustic Instruments pt2」やAFXの『Orphaned Deejay Selek (2006-2008)』(英語サイト)といった近年発表されている短めの作品と比べると、Aphex Twin独特の魅力を携えているものの、本作がとりわけ踏襲しているのは豪華なアシッド系サウンドとなっている。しかし、不協和な"CHEETA1b ms800"と"CHEETA2 ms800"ではテンポが短く変化しており、Cheetahの質感豊かな深いサウンドを簡単にテスト演奏しているような印象を受ける。こうしたトラックによって、障壁と制約からインスピレーションとスタイルを見出した1枚が完成を迎えるのだ。
  • Tracklist
      01. CHEETAHT2 [Ld spectrum] 02. CHEETAHT7b 03. CHEETA1b ms800 04. CHEETA2 ms800 05. CIRKLON3 [ Колхозная mix ] 06. CIRKLON 1 07. 2X202-ST5