The Avalanches - Wildflower

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  • ターンテーブリズム以上に流行から外れていったものを思い浮かべるのは難しい。現在、この流儀はよく言えば、ますますニッチな愛好家集団を伴う文化的産物といったところだ。しかし今やターンテーブリズム固有の音楽特性は暗黙的なまでに当たり前のものとなっている。自由奔放なサンプリング、ごちゃ混ぜのノスタルジア、マッシュアップ、オーディオ・マニピュレーション、ディープなレコード・ディギング、茶目っ気のある自己顕示など、かつてアンダーグラウンドなコミュニティで重要だったあらゆる要素が、今ではポピュラーミュージックの標準になっている。歴史、ユーモア、創意工夫、折衷主義、そして、ビートを重んじる創造精神が増殖することになったのは、Coldcut、DJ Shadow、Geoff Barrow、DJ Spooky、Cut Chemist、Mix Master Mike、Peanut Butter Wolfといったアーティストのおかげだ。 そしてそれはThe Avalanchesのおかげでもある。オーストラリアの同グループが厳密な意味でターンテーブリズムを体現したことは一度もないとするなら、少なくとも彼らはそのソウルを掴んでいたと言えるだろう。メルボルンのティーンネイジャーによるノイジーなバンドとして90年代半ばにスタートした彼らが、世紀をまたぐころにはレコードオタクや揺籃期のダンスミュージックファンなど、その手の人たちにとっての音楽神話として語られる存在になった。その理由を誰もが分かっている。『Since I Left You』だ。ターンテーブリズムの教義を合理化し、それを使って万華鏡のようにめくるめくパーティーチューン(どことなくミックステープやDJセット、そして、ライブパフォーマンスの要素があり、完全にオリジナルなもの)を作り上げることで、The Avalancesはダンスミュージック界屈指の人気を誇るアルバムを生み出したのだ。『Since I Left You』は『Endtroducing.....』のサンプラデリア(サンプリングによるサイケデリア)と多くの共通点があったように、『Homework』の嬉々とした奔放さにも同じく通ずるものがあった。 よく言われるように、デビュー作品の制作には一生に相当する時間がかかる。『Since I Left You』は約900枚ものデビュー作品のサンプルネタから成り立っていた。さらにこの大仕事はウェブ2.0以前の音楽消費の時代と相まって凄まじい旋風を巻き起こした。そのため、16年経った今、これだけは明確にしておきたい。『Wildflower』は『Since I Left You』とはかなり異なる作品ということをだ。成功を収めたこと、影響を受けるものが変わっていること、レーベルからのプレッシャー、法的問題、訪れようとしている時代など、理由は何であれ、The Avalanchesのセカンドアルバムはディスコやレアグルーヴよりもヒップホップやサイケフォーク、ボーカルポップに関連している。しかし、コアメンバーであるRobbie ChaterとTony Di Blasiの丁寧で気軽なタッチは出だしから健在だ。17秒のイントロ"The Leaves Were Falling"では、AMラジオで流れるロックや遠方から聞こえてくる話し声、街の騒音、そして、笑い声など、暖かく遊び心のあるアナログ音の断片が実っている。最初に聞こえてくる音は少女の「Hi」という声だ。続いて、その背後から「No motherfuckers gonna fuck with me」という少年の威勢のいい声が聞こえてくる。 『Wildflower』に収録された延べ1時間に及ぶ21曲のトラックを打ち抜いているのはこうした展開だ。『Since I Left You』がハウスパーティーを始めるためにプレイするレコードだったとするなら、本作は裏庭でのバーベキューや都会の夏の喧騒を闊歩するのに最適かもしれない。リラックスした雰囲気の明るく社交的な音楽であり、ディテールが絶え間なく注ぎ込まれている。"Because I'm Me"のように黄金期を彷彿とさせるヒップホップ・ジャムは、街をドライブする車のステレオで鳴らしてほしいと懇願しているかのようだ。同様に、ファンキーなステッパー"Subways"を完全に楽しむにはローラースケート場が必要かもしれない。しかし、それから数曲が過ぎると、ヴォーカルのハーモニーと牧歌的なフォークを編み込んだ"Colours"が収録されていたり、それに続き、ストリングスや鳥のさえずり、そして、ハーモニカのサンプルに乗って浮遊しながら日常に戻る"Zap!"が待ち構える。今回の音楽へ豊かに包み込まれるようにして、1984年のストリートキッズを捉えたドキュメンタリー『Streetwise』からサンプリングした"飛ぶこと"について語るクラシックなモノローグが使われている。もしかすると、こうした多様で刺激的な曲順の面で『Since I Left You』は『Wildflower』に引けを取るかもしれない。本作には聞くたびにきらめきを増す深い話が綴られているのだ。 しかし、いいことばかりなわけではない。言うまでもなく、Chaterが「ヒップホップ版Yellow Submarine」と称してきた(英語サイト)The Avalancesのセカンドアルバムには生ボーカルが使われると長年の話題になっていたので(英語サイト)、Biz Markie、Ariel Pink、Danny Brown、Toro Y Moi、その他多くの人たちが本作に参加していることは決して驚きではない。しかし実際のところは『Wildflower』の優雅なフロウを途切れさせてしまう結果になっているケースもある。"Because I'm Me"でのCamp Loによる得意げなヴァースの後に続く"Frankie Sinatra"の小人ラップは、サイケデリックな茶番劇に聞こえてくる。"The Noisy Eater"はとても楽しいトラックかもしれないが、Biz MarkieがCap'n Crunchを食べることについて語る滑稽なラインは非常に場違いに感じられる。"The Wozard Of Iz"はヒッピー的で華やかなドリーミートラックだが、Danny Brownがいつもの荒いフロウでどこからともなく現れると、その印象は消え去ってしまう。しかし、ラップと60年代ポップのモチーフを対照的に取り入れた"Live A Lifetime Love"はもっとなめらかで、Toro Y Moiの"If I Was A Folkstar"や、Royal TruxのメンバーJennifer Herremaも参加した"Stepkids"といった楽曲は過ぎ去った時代の隠れた名作であるかのようだ。 本作の雑食性が焦点を失うことにつながりかねない場面もいくつかあり、カリプソがぎこちなく取り入れられたり、複数のボーカリストの声が詰め込まれたり、もしくは、クラシックなディスコビートのシンプルなパワーがすっかり忘れさられたりしている。風通しのいいサンプルをブレンドした"Light Up"やフィルターファンク"Going Home"のように、ChaterとDi Blasiがあまり何もしていないときのほうが、『Wildflower』はしっくりとくる。"Since I Left You”や"Frontiet Psychiatrist"といったファンのお気に入りトラックに続くスピリチュアルなものはもしかしたら存在しないのかもしれないが、喜び、自由、そして、超越的芸術性の中にあるのは本作においても連続性だ。それにより、"Harmony"における祝福のボーカルポップが"Live A Lifetime Love"のノスタルジックなヒップホップへ完ぺきに移行し、"Sunshine"のベーシックなサンプル・フリップが見事なソウルソングへと変化しているのだ。『Wildflower』には新しい要素もきらびやかな要素も一切なければ、流行の要素も一切ない。本作で唯一テーマになっているのは、日常生活を曇りのない色の音楽で彩ることなのだ。
  • Tracklist
      01. The Leaves Were Falling 02. Because I'm Me 03. Frankie Sinatra 04. Subways 05. Going Home 06. If I Was A Folkstar 07. Colours 08. Zap! 09. The Noisy Eater 10. Wildflower 11. Harmony 12. Live A Lifetime Love 13. Park Music 14. Livin' Underwater (Is Somethin' Wild) 15. The Wozard Of Iz 16. Over The Turnstiles 17. Sunshine 18. Light Up 19. Kaleidoscopic Lovers 20. Stepkids 21. Saturday Night Inside Out
RA