Tempelhof & Gigi Masin - Tsuki

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  • アムステルダムのMusic From Memoryはこれまでに重要な再発企画を行い、ニューヨークのダウンタウンに住むコンポーザーVito Ricciや、Dip In The Poolによるエレガントなジャパニーズポップなどを再評価してきた。しかし、同レーベル最大の功績は2014年に発表したイタリアのアーティストGigi Masinによるコンピレーション『Talk To The Sea』かもしれない。80年代初頭、Masinがはモダン・クラシカル、アンビエント、バレアリック・ポップの間を漂うようなアルバムをリリースしたが、以降の彼は多くの人の情報網から外れていくことになった。『Talk To The Sea』は、彼の輝かしく刺激的な音楽を知らない新世代にとって啓示のような作品だった。以降、Masinは1986年のデビュー作『Wind』やJohnny NashとYoung MarcoとのスタジオプロジェクトGaussian Curveの作品、イタリアのグループTempelhofとのコラボレーションアルバム『Hoshi』を再発表して自身の再評価の流れを保ち続けた。そして今回、MasinがTempelhofのLuciano ErmondiとPaolo Mazzacaniのふたりと再び手を組み『Tsuki』を発表した。 アルバムのタイトルは日本語の"月"を指している。"Vampeta"のような短めのトラックの中にはハンドパーカッションによってわずかな鼓動が加えられることがあるが、『Tsuki』が素晴らしいのは歌舞伎役者のように振る舞うときだ。なぜなら、制作者の3人がゆっくりとした動きになるほど、そのサウンドはより素晴らしいものになるからだ。7分にわたる"Tuvalu"の名前はポリネシアの島から取られたようだが、最も至福な瞬間を迎えるときのこのトラックはバレアリックだ。滑走してくるピアノと言葉にならない声に合わせてループが陽気に跳ね回る。簡易ながら着実なストロークがたった数回施されるだけで、暖かな日陰のムードがトラックに漂い、ほとんど気付かれることなく、クライマックスへと高まっていく。 きらびやかなピアノによって支えられる"Blue 13"では、ささやくようなMasinの声が完全に聞き取れるものではないにもかかわらず、非常に感情をかき乱してくる。一方、"Komorebi"は柔らかなドローンとコズミッシェのシンセラインから立ち現れる。3分を過ぎてトライバルなリズムと詠唱が行進を始める展開は、Clusterの『Sowiesoso』に収録されていた遊び心に溢れるトラック"Umleitung"を彷彿とさせる。 MasinとTempelhofのふたりの融合ぶりは、誰が何を担当したのか解明するのが不可能なほどだ。数十年経った今でもMasinの音楽が共鳴するものであり続けている理由もはっきりと解明するのは難しい。ときに日当たりがよく、ときに物思いにふけ、メロディアスな場面があれば、アンビエントの場面もある。ある曲ではアブストラクトでも、その次の瞬間にはStingのようなサウンドに変わる。Masinによる1991年のアルバム『The Wind Collector』を説明するにあたって、ニューヨークのレコード店Other Musicは17世紀のイタリア人画家Caravaggioを引き合いに出していた。Masinの音楽は人間味があり、細かな部分まで作り込まれているため、その対比は非常にスリリングだ。そうした特性が『Tsuki』には流れており、日差しの輝きと影に潜む謎めいたものとの見事なバランスを成立させている。
  • Tracklist
      01. Tuvalu 02. Corner Song 03. Vampeta 04. Komorebi 05. Blue 13 06. Labyrinth 07. Phantom Ship 08. Treasure 09. The Flying Man
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