Raime - Tooth

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  • Raimeのファーストアルバム『Quarter Turns Over A Living Line』から3年半の間に、彼らは運営するBlackest Ever Blackと共に殺伐としたサウンドを代表する存在になった。近年、そのサウンドはエレクトロニックミュージック・シーンで一般的なものになっている。Joe AndrewsとTom Halsteadは同レーベルのアイデンティティ形成において大きな役割を担ってきた。先のファーストアルバムは多様な音楽性を捉えた実にクオリティの高い作品で、極めてディープなダブステップからEarthのようなドローンロック・バンドまで、多くの先駆者たちのサウンドを絶妙にうかがわせるものだった。『Tooth』はそんなふたりにとって大きな転機となる作品だ。 ある意味、『Quarter Turns Over A Living Line』は終結のように感じられた。同作はRaimeが3~4年かけて発展させてきたサウンドの結実だ。一方、『Tooth』はバンドのサウンドだ。彼らが生み出すバンドサウンドは極めてミニマルなアプローチで既に知られており、本作でも削ぎ落としたサウンドに再び取り組んでいる。1曲目の"Coax"や"Dead Heat"ではっきりと示されているのは、選び抜かれた素材だ。数を限定したパーカッション・サンプル、スネアやハイハットといった息の詰まるドラムキット、常に鳴り続ける低音、点滅するモノフォニックシンセ、そして、細く乾いたエレクトリックギターを聞くことができる。装飾を排したモノトーンに近い音使いは、彼らの意図を瞬時に実現するのに適している。結果、This HeatやIke Yardといったバンドから影響を取り入れたアルバムとなっており、そうしたバンドの性急感の中核から現代的な響きを持つ暗鬱とした鼓動が抽出され、各リズムの勢いが締め付けるようにまとめ上げられている。 "Dialling In, Falling Out"で定期的に鳴らされるダブテクノのスタブにより、アルバムの中間地点に心地よい転換がもたらされ、本作における空間とテクスチャーの特性が再構築される。そして次の瞬間、あらゆることが起こりうるような気分になってくる。辛抱強く、不安になり、震えながら、リスナーは今から起ころうとしている何かを待ち続けることになる。小さな変化が起こると、内部構造のちょっとした変化にもかかわらず、リスナーの耳には力強く響く。さらに重要なのは、意識に力強く響くことだろう。 今回、残念なところがあるとするならば、最後の3曲がそうしたポテンシャルを活かして構築されていないことだ。"Cold Cain"で馴染みのある執拗なギターが再び鳴り始めると、『Tooth』は個別の8曲からなるアルバムというよりも、ひとつながりの作品とみなすべき印象に変わる。作品の雰囲気が一貫しており、ペース配分も統一され、サウンドは厳選された音素材から創り出されており、各楽曲の境界がおぼろげなひとつの作品を形成しているのだ。 本作は"Stammer"によって出発地点に帰ってくる。このトラックは2曲目の"Dead Heat"を反芻する機能を果たしている。終盤になるといぶかしげな響きに変わっていき、トラックが歯を食いしばり、拳を握りしめるほどのスピードで最初の状態に戻ると、引き離されることのなかった要素がほころびを見せ始める。Raimeは、救済を求めているときに聞くようなアーティストではなかった。『Tooth』においても救いとなる逃げ場所は用意されていない。
  • Tracklist
      01. Coax 02. Dead Heat 03. Hold Your Line 04. Front Running 05. Dialling In, Falling Out 06. Glassed 07. Cold Cain 08. Stammer
RA