食品まつり a.k.a foodman - Ez Minzoku

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  • まれに、ダンスミュージックの体系化された要素を超越していくプロデューサーがいる。食品まつり a.k.a foodmanはそのひとりだ。日本において制約のない新しい音楽を求めるシーンに属す食品まつりの作品は基本的にフットワークを土台として成り立っているが、それは基盤というよりも漠然とした影響といったほうが近い。簡素なMIDI編成、奇妙なサンプル、そして、リズムの執拗に揺れ動く感覚から生まれる彼のコラージュ音楽は異端であり、その音楽で踊っている場面を想像することさえ難しい。食品まつりの最新アルバム『Ez Minzoku』で明確に示されているのはそうした一面だ。シンセホーンを使い、"間"を強調することで不安と歓喜がもたらされている。 『Ez Minzoku』で最も顕著なのがホーンの音だ。甲高く人工的で、吐き気をもよおす鳴りをしている。序盤のハイライト"Uoxtu"では、Casioのキーボードを子供が叩いているかのようにホーンが鳴らされる。こうしたトラックでは隙間の多いアレンジがなされているが、決してシンプルではなく、捉えどころのないリズムはジャンル区分の網をかいくぐっている。そして、さえずるようなハープシコードが先導する"Yami Nabe"ではBPM90、心地よいマレットがドリルンベース並みに叩き上げられる神経質な"Waterfalll"ではBPM160と、スピードにも多様性がある。 『Ez Minzoku』には錯乱させたようなエッジがある。それにより可愛らしい要素と荒々しい要素が対照をなしている。"Jazz"では、BPM160の熱狂的なペースで堂々たるホーンがしわがれた叫び声に組み合わされている。このトラックをフットワークと呼ぶこともできるだろうが、実際にこのリズムをしっかりと説明するのは難しく、ほぼ混沌にしか聞こえない。"Rock"では歪んだギターシンセによって甘美なメロディがスウィングし、ノイズロックバンドBo Ningenのボーカルをフィーチャーして曲芸飛行を展開する1曲目"Beybey"では、無軌道な声によってジャジーな雰囲気が相殺され、後半になるとノイズが切り刻まれる。 『Ez Minzoku』では異なるアイデアが次々と行き交っているが、本作は聞きやすい作品ではない。ポリリズムに振り切った"Dddance"など、鮮烈さに欠けるトラックにはじれったさを覚えそうになり、"Otonorabi"のようなトラックでは完全に構造が欠けているように思える。しかし、リスナーの緊張感を保ち続ける本作の手法はエキサイティングで、安全地帯にとどまり続けるようなことはない。"Ure Pii"や"Mid Summer Night"といった後半のみずみずしいシンセはうれしいご褒美のように感じられるかもしれない。しかし、こうしたトラックですら、キャンバスに飛び散ったペイントのように混沌としている。 微かではあるが『Ez Minzoku』はPC Musicの奇妙なサウンドを彷彿とさせる。Felicitaのように食品まつりも明るく純朴なサウンドを使って革新的で、ときとして、敵対的な結果を生み出している。ここでは高尚だとみなされるようなアイデアはそれほど鮮烈ではなくコミカルだ。確かにホーンは不快に感じられるかもしれないが、それでも『Ez Minzoku』は圧倒的でオリジナルな音楽作品だ。2014年のJapan Timesのインタビューで、食品まつりはフットワークが「ダンスミュージック以外のものになれる可能性」を模索していきたいと語っていた(英語サイト)。『Ez Minzoku』で彼はそれを実現している。彼は自身の実験室でフットワークのDNAから奇妙な物体を培養しているのだ。
  • Tracklist
      01. Beybey feat. Taigen Kawabe from Bo Ningen 02. Uoxtu 03. Nagaremasu 04. Dddance 05. Hikari 06. Jazz 07. Otonarabi 08. Mild Summer Night feat. Diskomargaux 09. Ure Pill 10. Yami Nabe 11. Waterfall 12. Minzoku 13. Rock
RA