Matt Karmil - ++++

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  • IDLE033』から数か月、Matt Karmilが今年2枚目となるアルバム『++++』を発表した。UKのプロデューサーである彼がIdle Handsから発表した先のLPは全体的に澱んだスロービート・テープを思わせる内容だったが、PNNから今回リリースするアルバムでは、大胆なまでに展開を抑えた、味わい深いティスチャーのテクノ路線に立ち返っている。9曲にわたり、Karmilはシンプルなアプローチで奇妙なサウンドを聞かせてくれる。いずれのトラックも必要最低限の要素だけで制作されており、装飾として使われるものはほとんどない。ループ、テクスチャー、パターンといった得意な要素を扱っているときのKarmilは、ひたすら深く潜っていこうとしている印象だ。その結果、『++++』は非常に瞑想的で、おぼろげに現れては消えるひとつのアイデアを軸にしてトラックを最後まで成立させている。 序盤の"If I'm Honest I Miss You A Little Bit"は、この点を広大な空間でヒプノティックに実現したケースだ。くぐもったテープノイズ、鼓動するローエンド・パターン、そして、フィルターをかけたコードによるループが用いられている。5分間の"Be Gentle"ではダビーなコードによるシンプルなループが使われている。"Carry Her / Wave"でも同様に、意識の惹きつけられる6分間が提供されている。『++++』の終盤、勢いが弱められる"Crystals"では甲高いパッドによる軽やかな鼓動が約9分間にわたって展開する。 過去のアルバム(特にPNNからのファーストアルバム『----』(英語サイト))と同様、削ぎ落したアレンジとKarmilの親和性は、彼のゆるぎない自信から生まれているように感じられる。トラックごとに主張がはっきりとしており、それが可能な限りダイレクトに表現されているのだ。そうした効率的なアレンジを上手く実現できているのは主に、プロデューサーである彼がテープ加工と繊細な処理によって音源に見事なテクスチャーを生み出しているからだ。そこにどれだけの時間が費やされているのかは容易に想像がつく。サウンドひとつひとつは入念に処理された印象で、各要素はテープデッキで何度もバウンス録音したかのような音をしている。こうした処理により、劣化させた音による大理石模様の層が生まれている。弾ける音、クリック音、その他の雑音はどれも継続的にテープを通過させた結果、発生したものだ。『++++』はKarmilが生み出すサウンドを活かして、導体としての彼の存在感を示している。終盤になってからリズムのローエンドを加える"Be Gentle"でのアレンジのように、彼は要素をフィードイン/アウトさせたり、ディレイやフィルターを徐々に変化させてサウンドを霧の中へ潜り込ませたりしている。 BISStudio Barnhus(ともに英語サイト)といったレーベルに提供した作品でKarmilはダンストラックに取り組んできたが、『++++』はクラブミュージックという領域の外れに位置する作品だ。ここで聞くことのできるリズムは、ゆっくりと轟くキックと砕け散ったハイハットやスネアであり、そのいずれもが帯状のノイズに包まれている。Karmilは今回もテープを中心に据えた制作プロセスから感情的深みを生み出そうとしている。『IDLE033』が魅力的な実験路線に足を踏み入れたとするならば、『++++』はそこからさらに堅実な一歩を踏みしめていると言えるだろう。
  • Tracklist
      01. Perfect World 02. Be Gentle 03. If I'm Honest I Miss You A Little Bit 04. Femern 05. AF 06. Carry Her / Wave 07. Crush 08. Crystals 09. Pulse
RA