Kowton - Utility

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  • Joe Cowtonはこれまでに長い道のりを歩んできた。イギリス人プロデューサーである彼がKowton名義を名乗り始めたのは2009年のことだ。同名義の1作目となる、2ステップの要素を含んだ「Stasis (G Mix) / Countryman」はリリース元であるKeysoundの深い夜の雰囲気にぴったりだった。以来彼は、ダブステップ、グライム、ハウス、テクノといった要素を結び付ける独自のサウンドを模索し続けている。しかし、彼が繰り出す打楽器的なサウンドは確立されるというよりも、Livity Soundの初期作品におけるリズム素材の少ないトラックから、シンセを多用しベースを重視したアレンジまで、型に捕らわれることなく変化し続けてきた。先進的なダンストラックを制作する人にとって、それが最良のアプローチなのだろう。2010年のポッドキャストでRAは「プロデューサーはダブステップとテクノの境界を上手く超えられるのだろうか?」と投げかけた。その問いに対し、Cowtonは回答しただけでなく、ハイブリッドなサウンドを生み出す彼の才能は境界を超えるだけでは終わらないことを証明した。 その後、Pev & Kowtonによるヒット作"Raw Code"がリリースされた頃を境にして、ロンドンを拠点に変幻自在の作品を生み出していた彼はストレートなテクノにのめり込んでいき、ひとつの傾向が顕著になり始めた。テクノの機能性と延々と繰り返される反復性が、彼のソロ作品コラボレーション作品の特徴となったのだ。この変化はどれも極めてエキサイティングでクラブシーンを活性化するものだった。そして自分自身を完全に見つめ直した末にCowtonが見い出したサウンドは、ありがちな言い方かもしれないが、とんでもないものだった。影響力があり、厳選した要素を難なく取り入れている彼のようなタイプは滅多にお目にかかれない。だからこそKowtonというアーティストは賞賛されているのだ。 彼はRBMAに対し「アルバムを作ろうとしていなかった」と語っているが、アルバムは生まれるべくして生まれた。彼の豊かなキャリアの約7年目にして誕生したのが『Utility』だ。そのため収録の9曲から聞こえてくるのはKowtonのルーツというよりも、現在の彼の様子だ。そしてそこから分かるのは、彼が普通の大物に落ち着いてしまっていることだ。Robert Hoodの『Minimal Nation』やShedの『Shedding The Past』に影響を受けたという『Utility』はテクノ作品だ。それだけに過ぎない。とりわけ本作のような作品では、テクノ作品であることが意味するのは実験性ではなく、職人的な構造やサウンドシステムでの効率性だ。テクノはかつてのCowtonにとってインスピレーション源であり、彼が予測不可能でグレーな音楽領域に足を踏み入れるきっかけになっていたが、本作の彼はテクノに夢中になってそれ以外に目を向けられなくなっている。 『Utility』ではテクノに対するそうした誠実さが如実に表れている箇所がいくつかある。例えば"Balance"や"Sleep Chamber"のようなトラックではテクノ特有の直線性を取り入れることで、感覚麻痺を誘発させる荒涼としたグルーヴが生まれている。本作で最も意欲的なリズムに取り組んだこの2曲は確かに、Kowtonがこれまでに示してきた要素を発展させたものだ。"Loops 1"のような露骨にループが中心になっているトラックでさえ、大胆に捩じれた魅力がなければ成立していないだろう。しかし訴求力の弱いトラックでは、テクノという制約のためか、もしくは、制約による障害にただ気付いていないためか、退屈な内容に聞こえてしまう。漫然と機械的な"Comments Off"や、活気のない"Bluish Shadow"のようなトラックがLivity Soundのシングルとしてリリースされるような状況は想像できない。 Kowtonのディスコグラフィーの中で見たときに『Utility』が不自然に感じられるのは、本作に相違点があるからではなく、過去作品の素晴らしさを曇らせているからだ。昨年の「On Repeat / Holding Patterns」を色づけていた鮮烈なコードや小刻みなエフェクトのような要素や、"Glock & Roll"のようなトラックでの堪らない軽やかさはここには一切存在しない。"Bluish Shadow"のダークなきらめきや、"Shots Fired"に絡みつく微かなシンセ、そして、"Balance"でのダブワイズされたハーモニカなど、独自性を感じさせる要素でさえ多様なポテンシャルを活かそうとしていない。 抑制を奨励し、装飾を好まない人たちによる特定のシーンでは、極めて実用的なダンスミュージックが過度に美化されることがある。この考え方が『Utility』に蔓延しており、大胆で革新的なスタイルを持つCowtonの内部構造と相克している。しかし、時計仕掛けのごとく軽やかに踊る"Some Cats"のように巧みな創意工夫が成されていれば、機械的なミニマリズムを魅力的に仕上げられる場合もある。そうした場面ではエコーのひとつを取っても、Cowtonがこれまでに培ってきたダイナミックな経験によって精度が高められていることが分かる。
  • Tracklist
      01. Comments Off 02. Scido 03. Balance 04. Sleep Chamber 05. Some Cats 06. Loops 1 07. Bubbling Under 08. A Bluish Shadow 09. Shots Fired