Fuji Rock Festival '16

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  • Fuji Rock Festivalはおそらく日本で最も長く愛され、親しまれているミュージック・フェスティバルだろう。開催地となる新潟県湯沢町苗場は山々に囲まれた広大な敷地が広がり、苗場プリンスホテルが隣接した会場は、冬はスキー場として賑わう。メイン4つを含める合計13ものステージでは、音楽は主にロックをはじめダンスミュージックからジャズ、スカなど幅広いジャンルのアーティストが登場する。1997年より開催され、現在10万人以上の規模を誇るこの国内最大ミュージック・フェスティバルは今年で20周年を迎えた。 野外フェスティバルでの醍醐味の一つは、大自然がもたらす開放感だ。また、それには天候の変化がつきものである。標高約1000メートルの場所に位置する会場の天気は不安定で、例年のように多くの来場者が悪天候に備え長靴やレインウェアなどの準備をした。途中ぽつぽつと雨が降り始め夕立が予想される場面はあったものの、蓋を開けてみれば晴れと曇り空が続く、天気に恵まれた過ごしやすい3日間が続いた。 筆者が到着したのは22日の午前中。GREEN STAGEでは日本のバンドBoredomsが鉄筋のような打楽器と叫ぶような歌声で実験的なサイケデリック音楽を響かせていた。会場で一番大きく動員数4万人規模のこのステージでは、熱狂的ステージ付近はもちろん、少し離れた芝生の上に椅子などを広げてまったりと音楽を楽しむ人々の姿も多くみられる。その後はWHITE STAGEにて、LA出身The Internetのグルーヴィーなフューチャー・ソウルサウンドを堪能。ここは2番目に大きなステージで、フロアは高音と低音がバランスよく響きわたる。入り口手前の橋の下には緩やかな川が流れており、昼間には川遊びをしている人々の姿も多く見受けられた。
    この日筆者にとってのハイライトとなったのはGREEN STAGEでのJames Blakeだ。ドラム、シンセ、サンプラーを駆使した3人編成のライブは、どこか緊張感もあり、ダークで切ないダブステップサウンドに海のように深い歌声が響きわたる。 涙を誘うような胸が熱くなる気持ちでエンディングを迎えた。さらにその後WHITE STAGEで行なわれたイギリス・南ロンドン出身の兄弟ユニットDisclosureは予想以上の大ヒットだった。ディープ・ハウスや、低音ベースが響く2ステップとR&B調のボーカルはまさに現代的UKガレージで、VJの視覚効果による相乗効果でフロアは一層熱気に包まれた。この日は心地よい疲労と涼しい気温でぐっすりと眠りについたのだった。 2日目。世界最長のゴンドラ「ドラゴンドラ」に揺られ絶景を眺めながら辿り着いた先は、標高約1346メートルの山頂に位置するDAY DREAMING & SILENT BREEZEだ。芝生が広がる会場の目先にあるDJブースの両脇にはPioneer Pro Audioのスピーカーが積み上がり、メインステージとは違ったアンダーグラウンドな雰囲気が漂う。FAKE EYES PRODUCTIONのファンキーでリズミカルなコズミックサウンドに続くDJ NOBUは、多幸感のある幅広い選曲のハウスセットで観客を魅了した。OrbitalのPhil HartnollのDJがスタートする頃になるとフロアは沢山のオーディエンスで埋め尽くされる。90年代を象徴するような約一時間半のインダストリアル・テクノセットを十分に堪能し、既にこの日の締めくくりのような充実感を味わいながら地上に戻ることにした。夕方のWHITE STAGEでは、シカゴ出身のポストロックバンドTortoiseが木琴と鉄琴の音が心地よいダウンテンポなインストゥルメンタル・ライヴを披露。続いて登場したのは顔面をマスクで覆ったSquarepusherことTom Jenkinson。前半約1時間のプロジェクション・マッピングと、凶暴なブレイクビーツを調合した“パフォーマンス”は面白かったが、残念ながら途中退屈する場面もあった。後半約20分はリズミカルな楽曲やソロ・ベース演奏など、前半とは違った一面を楽しむこともできた。休憩を挟みRED MARQUEEへ足を向ける。昼とは違う雰囲気の“ダンスフロア”で、女性ボーカルを中心とした90年代直球ハウスをプレイするのはTodd Terryだ。Inner Cityの”Big Fun”やNirvanaの”Smells Like Teen Spirit”などのビッグチューンと、ハイハットを利かせたハウスを上品に繋ぐプレイは圧巻だった。その後に続くTresvibes Soundsystem3人のディープ・テクノセットに後ろ髪を引かれつつ、翌日に備えるべくキャンプサイトへ足を向けた。
    最終日はまったりとしたミッド・デイセットが似合うFIELD OF HEAVENからスタート。ジャマイカ出身のERNEST RANGLIN & Friendsは、82歳とは思えぬ現役ギタリストを中心にスカやレゲエなどを披露した。日が暮れる頃、WHITE STAGEでポストロックバンドBattlesを鑑賞した後、GREEN STAGEへ足を向ける。ヘッドライナーのRed Hot Chilli Peppersが演奏を終えた後のステージで、スペシャルゲストとしてクロージングを務めたのは、日本が誇るテクノポップグループ電気グルーヴだ。彼らのポジティブでユーモラスなパフォーマンスは、GREEN STAGEを巨大なダンスフロア化させるほどの盛り上がりをみせた。一方のRED MARQUEEではSoichi Teradaがアルバム『Sound from the Far East』を中心に、力強く多幸感溢れるトラックの数々を披露。続くDJ Harveyの3時間のセットはフェスティバルの素晴らしい締めくくりとなった。コンゴやドラムなどアフリカンサウンドがアンビエントに溶け込む物語のような展開から、気づくとディープ・テクノで踊っている自分がいた。曲を繋ぐ姿は「演奏者」であり、そのどこかにロック気質も感じさせられる。日差しが差し掛かる頃には、明るいディスコで高揚感のあるエンディングを迎えた。 筆者がフジロックで素晴らしいと思う点の一つは“ホスピタリティ”である。会場内に設備された、家族や子連れに優しいKIDSLANDや、有志によって手入れされたボードウォーク。屋台のフードはどれも手が込んでいて美味しく、その種類の多さに目移りしてしまうほどだ。キャンプサイト利用者は24時間シャワーや、苗場プリンスホテルに付属する温泉施設が利用できるのも有難い。その他、エントランス手前にあるCRYSTAL PALACE TENTなどのベニューでは、誰もが入場無料でイベントを楽しむことができる。そのどれもがFuji Rockに対する気配りを感じられた。 今年20周年を迎えたFuji Rock。それはフェスティバル主催者や出演アーティストだけでなく、運営者と地域の協力、そして何より毎年の参加者無しでは語れない。ひと夏の素晴らしい思い出は、参加者それぞれの想いがあってこそ実現され、世代に語り継がれるのだろう。最終日には多くの人から「また来年」という声を聞いただけではなく、ゲートでは“See you in 2017”の文字を見かけた。来年も再来年もそして何十年後も、この季節がくると「Fuji Rockに還る」ことができるような、日本が誇るフェスティバルであり続けてほしい。 Photo credit: Header & James Blake - Yasuyuki Kasagi DJ Harvey - Masanori Naruse
RA