Tortoise - The Catastrophist

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  • Tortoiseのキャリアを現時点で捉えるだけでは、彼らの存在を軽んじてしまいがちだ。シカゴの5人組による重要作品(『Millions Now Living Will Never Die』、『TNT』、『Standards』)が発表されたのは実に10年以上前であり、最後のアルバムを経て7枚目のスタジオアルバム『The Catastrophist』がThrill Jockeyからリリースされるまでに7年が過ぎた。ジャズ、エレクトロニカ、テクノ、ダブ、ラウンジ、現代音楽といった要素を作品に織り交ぜることで、90年代にインストゥルメンタル・ポストロックの新たな音楽的可能性を切り拓いたTortoiseは2009年の『Beacons Of Ancestorship』にて、自身のキャリアに深く根差した革新的なハイブリッドサウンドを生み出す意志と能力が衰えていないことを証明した。 Tortoiseは1枚のアルバムの中で様々な音楽的変容をみせることが多いが、『The Catastrophist』にはこれまでの基準を超える大量のアイデアが詰め込まれている。話によると、2010年にシカゴ市から「シカゴ周辺のジャズ/即興音楽コミュニティとの繋がりに根差した組曲を制作してほしい」と依頼を受けて制作された5つの楽曲から本作は構築されているらしい。『The Catastrophist』の制作にあたり、Tortoiseはこのオープンなテーマ(即興とソロ演奏にかなりのスペースを割いている)からアルバムに適した楽曲を生み出し、そこへふと思いついたようなちょっとしたアイデアを詰め込んでいる。 角張ったギター、余裕のあるドラム、シンセと電子音のリズムによるレイヤーなど、Tortoise特有のサウンドを再び味合わせてくれる表題曲と"Ox Duke"を経て、70年代のヒット曲David Essex "Rock On"のカバーでようやく『The Catastrophist』はレフトフィールドに向かっていく。シンガーTodd Rittmannの参加により、もともと奇妙な原曲がさらに変異的なポップに変化している。うねるリズミカルなノイズと調子のおかしい機械のような雰囲気を身に纏ったカバーバージョンだが、燃料を直に注いだような原曲の重々しいノリに対し、しっかりとオマージュが捧げられている。 『The Catastrophist』には他にも数曲、意外な良作が含まれている。"The Clearing Fills"はBrian Enoの『Another Green World』と同路線の魅力的でドリーミーなトラックだ。小型Casioのリズムと軽くブラシされるスネアを中心にしてジャジーなギターとピアノコードが組み上げられている。"Hot Coffee"では巧妙にダークな雰囲気を醸すファンキーでスペーシーなラウンジミュージックが展開され、"Yonder Blue"ではYo La TengoのGeorgia Hubleyがゲストボーカルとして参加し、ゆっくりとしたピアノポップにシンプルで甘い歌声を加えている。Tortoiseらしい遊び心が反映された"Gesceap"では、毛羽立ったシンセやギザギザしたギター、そしてクラウトロック的なドラミングが何層にも絡み合う。本作のハイライトのひとつだ。 こうした多様さが意味するのは、Tortoiseの絶頂期を知る人たちなら好みに合い愛着を感じるトラックを数曲見つけられるだろうが、一貫した進化性に惹かれて彼らを追っている人たちを満足させられる場面は限られるであろうことだ。様々な変化や展開は魅力的だが、それにより『The Catastrophist』のバランスが幾分失われているように感じられる。まとまりあるひとつの作品として結実するには、散りばめられたアイデアが余りにも異なり合っているのだ。とはいえ、約25年間活動を続けてきたバンドとして(それだけでも快挙だ)、伸び悩むことなく、さらに言えば、数多くの実験要素を楽曲に詰め込むことを恐れたりしないTortoiseにはとても勇気づけられる。
  • Tracklist
      01. The Catastrophist 02. Ox Duke 03. Rock On 04. Gopher Island 05. Shake Hands With Danger 06. The Clearing Fills 07. Gesceap 08. Hot Coffee 09. Yonder Blue 10. Tesseract 11. At Odds With Logic
RA