Paranoid London - Paranoid London

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  • 「プレスやレビューに取り上げられてもいないし、プロモーション用音源を配布してもいないのに、彼らのファーストアルバムが一番売れていた。Panorama Bar、Sonar By Night、Dekmantel、Fabricの16周年など、今年プレイしたパーティーやフェスティバルを次々と盛り上げまくった彼ら。デジタルでリリースするのは今回が初。これでようやく今話題の音楽をみんなに聞いてもらうことができる。メロディアスでディープ、高い完成度でプロデュースされている音楽が好きなら、どうかお引き取りを。これはホンモノだ。DJとダンサーのためのダーティーな反復音楽だ。ハ・ハウ、ハ・ハウ、ハ・ハウ、ハ・ハウス・ネイション!」 これは、Paranoid Londonとして知られる二人組Gerardo DelgadoとQuinn Whalleyが自分たちのファーストアルバムのプレスリリースで書いた自前の文章だ。自画自賛なヤツだと扱き下ろしたくなるかもしれないが、Paranoid Londonの音楽が無視できないほど強力なことは確かだ。とんでもなくキャッチーなアシッドグルーヴを展開した2012年の"Paris Dub 1"で彼らを知った人は多いだろう。彼らが「盛り上げまくった」と自慢したクラブで、このトラックは相当なヒットとなり、しまいには自尊心の強いDJがプレイし続けるにはあまりにも人気になり過ぎてしまった。彼らの他のトラックが同等のヒットになっているとは言い難いが、その多くはかなりいい線をいっている。2014年にヴァイナルで登場し、今回デジタルで発表された『Paranoid London』には、これまでに彼らが制作した11の楽曲がまとめられている。 Paranoid Londonについて作為的だとか紋切型だと非難する人がいるかもしれない。彼らのトラックはすべて20年以上前の伝統的音楽(ジャッキンなシカゴスタイルのアシッドハウスだ)を取り入れており、ざらついたドラムサウンド、ダーティーな303、そして、大抵のトラックでゲストボーカルを迎えるなど、一貫して初期のスタイルを追い続けている。とはいえ、その結果が素晴らしければ、それを非難するのは難しい。DelgadoとWhalleyにはフックに対する類まれな才能がある。"Paris Dub 1"での耳に残るボーカル、"Light Tunnel"における小気味よく打ちこんだだけのリムショットパターンなど、そのフックが何にせよ、彼らはリスナーの意識を掴み取り、病みつきにさせてしまう方法でトラックをまとめ上げている。 Paranoid Londonの制作スタイルは伝統に沿ったものかもしれないが、全体的な姿勢は間違いなく彼ら独自のものだ。収録曲の多くにはダンスミュージックでは珍しい鋭くパンキッシュなエッジがある。そのことはMulato Pintadoが参加したトラックにとりわけ表れている(Mulato Pintadoはハウスボーカルというよりインディ系シンガーソングライターであり、Lou ReedやIggy Popを思わせるさりげなさで「深夜の冒険」と称してパーティーにまつわる物語を表現している)。 アメリカのハウスアーティストParis BrightledgeもParanoid Londonのお気に入りのコラボレーション相手だが、今回、彼がセンターを飾っているのは大ヒット作"Paris Dub 1"の1曲のみだ。このトラックは確かにレトロかもしれないが、ストリートでの人生を綴った歌詞から執拗なまでにキャッチーなメロディまで、Brightledgeによるパフォーマンスの迫力は、発表から3年経った今も新鮮であり続けている。個人的には、"Paris Dub 1"は1987年のアンセム"It's All Right"といったBrightledgeのクラシックに匹敵するトラックだと思っている。 ゲストボーカルがいなくても、ソングライティングとアレンジに対する異才を持つDelgadoとWhalleyの作品は活き活きとしている。ある意味、本作はあからさまなまでに単調であり、ローファイなアシッドトラックを次々と並べているだけだ(僕の友人がTaco Bellのメニューと比べて、同じ素材を使って多くのコンビネーションを作れるのはどちらなのかを調べたくらいだ)。しかし、"Loving U (Ahh Shit)"における予想外に早く訪れるブレイク時の巧みなアレンジや、"Headtrack"での意味不明なボーカルに代表される不思議と病みつきになる伏線フックなど、何かしらを通じて楽曲それぞれは独自の際立ちを見せる。Pintadoの参加によっても各楽曲に個性が生まれているが、ビートだけでも十分に猥雑なオーラが提示されており、"Eating Glue"や"300 Hangovers A Year"といったトラックタイトルもそれを後押ししている。シンプルなリフやざらついたバイブスを効果的に駆使するDelgadoとWhalleyにはSuicideのようなバンドを思わせる生々しい表現性がある。 Paranoid Londonでひとつ奇妙なことは曲の尺が短くなっていることだ。ヒット作に収録されていたトラック数曲はヴァイナルでは1分以上長かった。さらに未発表曲"Light Tunnel"ですら6分弱でフェードアウトしている。これは驚くことではないのかもしれない。彼らのような純粋主義者はオリジナルのレコードを特別なものにしておきたいのだろう(しかし、この短縮アレンジには少しからかわれたと感じずにはいられない)。とはいえ、もの足りないと思わされるだけマシだということにしておこう。
  • Tracklist
      01. Light Tunnel feat. Mutado Pintado 02. Transmission 5 feat. Mutado Pintado 03. Headtrack 04. Paris Dub 3 feat. Paris Brightledge 05. Machines Are Coming 06. Lovin U (Ahh Shit) feat. DJ Genesis 07. We Ain't 08. Eating Glue feat. Mutado Pintado 09. 300 Hangovers A Year feat. Mutado Pintado 10. Paris Dub 1 feat. Paris Brightledge 11. Line Up Meltdown feat. Mutado Pintado
RA