Surgeon - From Farthest Known Objects

  • Share
  • 「アルバム制作当初に僕が考えていたのはSFのアイデアを探求することだった。でも、僕が向かっていたのは宇宙空間ではなくて精神空間だったとすぐに明らかになった」とSurgeonが語るのは2011年の前アルバム『Breaking The Frame』(英語サイト)のことだ。同アルバムでは、Eliane RadigueやAlice Coltraneといったアーティストの影響を取り入れ、音楽の「深く精神的な要素」が模索された。それに続く本作では、このプロセスが逆になっており、宇宙空間を再び模索するにあたって内省性が取り除かれている。『From Farthest Known Objects』に収録された8曲のトラックタイトルは遥か彼方に広がる銀河にちなんで名づけられている。Surgeonは収録トラックについて、機材を通じて異世界から届いた異常信号を傍受しているかのように捉えた「ヒットポップス」だと称している。Surgeonのアルバムがこれほど従来のテクノに馴染んで聞こえるのは90年代以来だ。 この点はAnthony Child(Surgeon)の嗜好の変化を表している。過去5年間にリリースされたSurgeon名義の作品(英語サイト)は高い完成度ではあったが、冒険的ではなかった。同時期、彼はモジュラーシンセにハマり、アンビエント路線を展開して昨年の『Electronic Recordings From Maui Jungle Vol.1』へと至った他(英語サイト)、一連のフェスティバルを通じてライブとDJを融合したセットを繰り広げていた。力強さに重きを置き、意外性の少ないそのセットは『From Farthest Known Objects』への準備になっていたようだ。 本作は均一的でかなりシンプルな構造をしている。安定したリズムとざっくりとしたアレンジによって際立つシンセは堆積して粘つく塊になったり、左右のあちこちで怒れた悲鳴を上げたりしている。収録トラックでは最初の30秒でほぼすべての音素材が使われている場合が多く、30秒以降は単に音色が変化したり、フェードイン/アウトしたりしながら、ぬかるんだグルーヴを乗り越えていく。何曲かはとても面白い。不穏なまでに弾力性のある"EGS-zs8-1"、躍動感のある"BDF-3299"や"SXDF-NB1006-2"といったトラックだけを収録していたなら傑作EPになっていただろう。 それ以外のトラックでは同じアイデアが使い古されているだけだ。"BDF-521"など、印象的だが人目を惹くほどではないトラックもあれば、中にはかなりひどいトラックもある。粗削りなインタールード"ULAS J1120+0641"は甲高いリングモジュレーション・テクスチャーにぎこちなく埋もれてしまっている。ぬかるんだサウンドだとChildはファンクネスを発揮するのに苦労することが多く、"A1703 zD6"や"z8_GND_5296"の迫り来る三拍子は特に物足りない。 とはいえ、本作の素晴らしいトラックですら内省性に欠けている。そうしたトラックでは内ではなく外に意識が向けられ、Childの音楽観が持つ複雑に渦巻く豊かな内面へは興味が一切示されていない。Child曰く『Breaking The Frame』は「エンターテイメント」ではなく「変容」をテーマにしていたようだ。それに続いた本作は純粋にエンターテイメントであろうとしているが、おかしなことにそれほどエンターテイメントになっていないようだ。
  • Tracklist
      01. EGS-zs8-1 02. z8_GND_5296 03. SXDF-NB1006-2 04. GN-108036 05. BDF-3299 06. ULAS J1120+0641 07. A1703 zD6 08. BDF-521
RA