Roly Porter - Third Law

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  • Vex'dが解散し、メンバーのふたりがそれぞれソロに転向したとき、あのエッジの効いたアグレッシブなサウンドを担当していたのはどちらだったのかが明らかになった。ダブステップに酩酊感があった当時から、Roly Porterはモダンクラシカルの要素を取り入れた実験者として自身を変化させてきた。ライブインプロヴィゼーションから、メロディに対するMax Richter的な視点を持ったダークなアンビエントまで、彼の作品はこれまでに幅広いサウンドをカバーし、そのすべてをSF的に表現してきた。ファーストソロアルバム『Aftertime』における伝統的な感性によって、前作ではそうした衝動が美しくひとつにまとまりあい、惑星の誕生から爆発による終焉までのライフサイクルを表した36分に及ぶサウンドジャーニーが展開された。『Third Law』により、Porterは自身の音楽をアヴァンギャルドな領域に持ち込んでいる。その音楽はお馴染みの要素で構成されているが、今回のPorterはリスナーの方向感覚を失わせ、彼らを取り囲んで圧倒するためにその要素を使っている。本作は、まっすぐ殴打してくるようなVex'dの作品とはかなり異なる攻撃性を持った1枚だが、彼の音楽を同じく「身体に直接訴えかけるコンテクスト」に位置づけるものだ。 『Third Law』では、Porterの初期作品で見受けられるサウンドシステムからの影響と、ソロ作品で新しく取り入れたシンフォニー的アプローチが組み合わされている。その目的はいかなるジャンルにも迎合しないことだ。そして彼はその目的をほぼ達成している。53分に及ぶ重厚な本作をフォローするのは容易ではなく、馴染みのあるアイデアもそれほど多く使われていない。それにかわり、本作はリスナーを落雷のようなサウンドで打ち付け、Porterによる強力なメロディをさらに彼方へと押しやりながら、不気味な静けさの漂う空間へ落下していく。何かが引っ掛かった巨大なタービンのようにサウンドが不意につんのめり、メロディの新たなモチーフが一見ランダムに現れては消えていく。本作より『Life Cycle Of A Massive Star』の壮大な場面に存在感を強く感じる人がいるかもしれないが、同作はそう感じられるように作られていた。本作の場合は、突発的な爆発によって、リスナーに向かって猛々しく音をぶつけたり、周囲を揺さぶったりしている。その仕掛けは、オペラのように雄大なオープニングを飾る"4101"から始まり、アルバムの進行に従ってさらに粉砕力を増しながら何度も繰り返される。 Porterが制御の難しいアプローチを取っていることは、『Third Law』が乱高下する内容であることを意味しているが、その点が本作を興味深いものにしている。つまり、静かな場面では不気味さが増し、騒がしい場面では恐ろしさが増しているのだ。『Third Law』に物語性が欠けていることでむしろ陰謀感が増している。"Departure Stage"や"Mass"の拷問のようなサウンドから、"Blind Blackening"ののっしりとした不協和音まで、本作は一見パーカッシブにすら感じられる。Porterはドラムパート、コーラスのボーカル、ストリングス、その他の電子ドローンを複雑な層に重ね合わせている。そうやって彼は楽曲を展開させている。これはひとつの場所から次の場所に移るような音楽ではなく、ゆっくりと外側に向けて広がっていき、一瞬で内側に引き戻される音楽だ。 『Third Law』の後半は特に凄惨としている。"High Places"では、突如吹き荒れるノイズが空間を切り裂き、Vex'dが遥か昔に発表した『Degenerate』のようなサウンドステージ上を大量の榴散弾が飛び交っている。つまり、最初からPorterを魅了し続けてきた衝動やアイデアを軸にして彼は自らの道を再び見つけているのだ。『Third Law』はPorterが発表してきた中で最も容赦のないアルバムであり、最もVex'dに立ち返った1枚でもある。Vex'dの作品同様、『Third Law』も感情を物理的な力と存在感に変えている。Porterは初期の作品が持つ攻撃性をソロ作品での異世界感と成熟性に繋げる方法を見つけ出したのだ。そしてそれは息をのむほど素晴らしく、同時に熾烈なのである。
  • Tracklist
      01. 4101 02. In System 03. Mass 04. Blind Blackening 05. High Places 06. In Flight 07. Departure Stage 08. Known Space
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