SOPHIE at Circus Tokyo

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  • 22時頃、Circus Tokyo近くのファミリーレストランに寄ると、出演者のSeihoがノートパソコンに向かい真剣な表情で作業をしていた。直前まで調整をしているのだろう。特別な日になりそうな予兆がする。今夜の主役となるSOPHIEは、チャーミングで突き抜けた未来感を極限まで音数を減らしつつ表現する作風が、既存のシーンから逸脱したスタンスで話題となった。ベース・ミュージック系レーベルNumbersからリリースしたEP「LEMONADE / HARD」(2013)や「Product」(2015)において「分かりやすく楽しめる」「先進的」とレビュアーのAndrewも評価。そこから、Madonnaや安室奈美恵のトラックを制作したという、まさに新進気鋭かつ要注目のUKのプロデューサーだ。 0時頃、会場前は入場待ちの列ができていた。今日のメインアクトである初来日のSOPHIEを見逃してはなるまいという20代の若者が大勢集い、彼の所属するPC Musicのレーベルメイト、A.G.CookやeasyFunもイギリスから会場に来ていた。会場内のメインフロアでは、歓声が上がっている。昨年USツアーを敢行して今年SkrillexのレーベルNEST HQからリリースして期待が集まる、若干20歳の日本人トラックメイカーIimori Masayoshiが、ジャージークラブやトラップを中心に安定感のあるプレイを続けた。 気付くと身動きがとれないほどの満員のフロア。そこをかき分けて、SOPHIEがステージ上に登壇した。赤く染められて若干パーマの掛かったヘアスタイル、エナメルのジャケットを身にまとった細身の男性という、際立った出で立ち。Iimori MasayoshiのDJが終了して音が一瞬止むと、フロアからは拍手と歓声、口笛が湧き上がる。まさに待望されていたSOPHIEの出演。開始とともに、ノイズまみれの低音が強調されたベースがけたたましく鳴り響く。曲調はトラップなのだが、スネアが鳴るべき場所にチャーミングなフレーズが鳴ってスネアの役割を果たす。彼ならではの極力音数を減らして、一音一音の音の存在感を露わにする楽曲によって、フロアでは一層歓声が上がった。そこから、奇っ怪な金物の入るヴォーグ、抜けの良いサイン波が響くゲットーハウス、キックに張りのあるハードテクノ、ディスコテイストのサンプルの入ったフィルターハウス、早回しのヴォーカルが乗ったダンスホールなど、彼のセンスを通過しながらいくつものジャンルを横断した未発表音源の連発で、フロアは曲ごとに湧いた。 基本的に自作曲をプレイし、繋がないこともしばしば。BPMやジャンルが変わるが、チャーミングでソリッドで重厚なシンセと、ピッチを上げたヴォーカルサンプル、そして極限まで音数を減らす構成の楽曲などで、彼のキャラクターが保たれている。ダンスイベントということもあって、ジャンルやBPMを合わせて繋がなければいけないという固定観念にとらわれがちだが、それを解体する痛快さがあった。ただ、全体を通して転調が多いため、踊り続けることで得られる高揚感よりも、荒削りながら次はどういったアイデアが聴けるのかを期待しながら楽しむ一時間となった。 ライヴ終了後はフロアの人が減るなか、SOPHIEとは対照的にSeihoがメランコリックでメロディアスなライヴをプレイ。一晩の流れを楽しむクラブ的なノリを求めているよりはSOPHIE目当ての客が多く、とてもやりずらそうに感じた。しかし、結果としてパーティ好きが残り、すし詰め状態から適度に踊りやすい状況になり、SOPHIEで高ぶったテンションを持続させながら明け方まで盛り上がっていた。
RA