Tarquin Manek - Tarquin Magnet

  • Share
  • Tarquin ManekはBlackest Ever Blackの現MVPかもしれない。謎に包まれたオーストラリア人である彼が携わってきた数々の作品は、同レーベルが近年リリースしているフリークアウトしたサウンドの骨子に欠かせないものだ。まず最初にリリースされたのはTarcar名義での不気味な12インチで、その後、F ingers名義による陰鬱なフォークアルバムが続いた。両作品によりBlackest Ever Blackはテクノのルーツから引き離され、ホームレコーディング、奇妙で空間的な仕掛け、うめき声、そして、脳裏に焼き付く演奏によるアコースティックな世界へと引きずり込まれた。Manekにとって同レーベルから初となるソロ作品『Tarquin Magnet』は彼のユニークな才能を捉え、未知なる領域へと深く突き進んでいる。ジャズ、ノーウェーブ、フリークフォーク、ドローンを魅力的にミックスした本作は奇怪で密室的だ。 12分のトラック"Sassafras Gesundheit"により『Tarquin Magnet』は痛ましいコントラスト(肉を削るようなシンセに対してクラリネットの悲鳴を組み合わせている)からスタートする。ウッドウィンドが対となる機械音のまわりを旋回し、いたずらに演奏したようなバイオリンが入って来ると、過激なサウンドが押し引きを繰り返し始める。そしてその煩雑な音使いは混沌から不気味な虚無へと変化していく。最も強烈な場面では"Sassafras Gesundheit"は混沌としたノイズの壁になり、最も心地よい場面では、Manekにだけ理解できる言語で書かれた、感情を想起させる響きのポエムになる。 逆サイドでは彼のレパートリーであるダブの影響を探求している。"Perfect Scorn"は酩酊感のあるプランダーフォニックスだ(英語サイト)。シンセと謎めいたサウンドを重ね合わせ、その下にぐらつくメロディを埋め込んでいる。『Tarquin Magnet』を締めくくる"Blackest Frypan"では、突発的な振動とMathew Bratmanによる歪んだ声が使われている。本作で最も飾り気がなく逸脱したトラックだと思われるだろうが、そこには音楽的特性がある。それはManekの無愛想なアレンジを魅力的に変化させているのと同じ、得も言われぬ特性だ。 『Tarquin Magnet』のさえずるようなサウンドクオリティは、ますます本作を奇妙にする。Manekが放つサウンドの多くは、何年も屋根裏に眠っていたような響きをしている。そしてそれは本作でも同じだ。ざらついた原始的な音色の心地よさを組み合わせた彼女のスタイルはノーウェーブの時代までその起源を遡ることができるが、ノーウェーブがけたたましく騒然としていたのに対し、Manekのサウンドには探求心がある。もしかしたら楽観的ですらあるかもしれない。それは、こうしたサウンドを彼女と一緒に発見しているような感覚だ。そして誤った音高による不協和や、フィルターのノブを開放した気持ちのいい圧搾音の中で、彼女は嬉々としている。そうしたサウンドすべてが稀に少しの間だけひとつにまとまると、その効果は心地よく、決して対立的ではない。 何回聞いても『Tarquin Magnet』を完全に掴み取るのは不可能そうだ。本作は急激に左に曲がったと思えば、右に曲がって行き止まりにぶつかり、そして再び進み始める。そこには驚きや不安の要素がある。それはBlackest Ever Blackのサウンドの核を担うものだ。Blackest Ever Blackはエレクトロニックミュージックで非常に意外性がありながら一貫性を感じさせるレーベルのひとつであり、そして確実にトップクラスの奇妙さを持っている。この複雑なスタイルを『Tarquin Magnet』よりも素晴らしく具現化した作品は他に無いのではないだろうか。
  • Tracklist
      01. Sassafras Gesundheit 02. Fortunes Past 03. Fortunes Begun 04. Perfect Storm 05. Blackest Frypan
RA