Broken English Club - Suburban Hunting

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  • 約20年に渡り、Oliver Hoは様々な音楽性を披露してきた。現在休止中のセルフレーベルMetaからリリースしていた頃の彼は、トライバルテクノの主要プロデューサーだった。最近の彼の作品で最も興味をそそられるのは、ダンスフロアにそれほど焦点をあてていない作品だ。芸術、文学、そして、音楽の神秘性や精神面から強く影響を受けるようになるにしたがって、HoはRaudive名義でのコンセプチュアルなクラブミュージックの他、Zov ZovやBroken English Club名義で実験性の強い作品をリリースしてきた。『Suburban Hunting』はBroken English Clubを完全に具現化する初の試みだ。マニフェストという言葉を使うならば、このプロジェクトはおそらくHoにとってこれまでで最も音楽的な広がりを持つものだ。 Broken English Clubが初登場したのは(英語サイト)、Regis、Silent Servant、James Ruskinによって2013年に設立されたアートレーベルJealous Godからのリリースだった。続いてMinimal Wave傘下のレーベルCititraxに提供した、Silent Servantとのスプリット盤では、昔のEBMやポストパンクを新鮮な"インダストリアル・ウェーブ"的視点で掘り返していた(Will Lynchは「悪いわけがない」と称していた(英語サイト))。そして「Scars」にてBroken English Clubのサウンドは確固たるものになったが、『Suburban Hunting』はそのサウンドを細かくチェックするために解体しようとしているような印象だ。 本作には主に3つのタイプのトラックがある。ゆったりとした哀歌("Nursing Home"、"Scum"、"Prayer Space")、ビンテージ・テクノ("Vacant"、"Knives")、そして、騒がしいポストパンクだ("Derelict"、"Tourist Zone")。そして、その間を他のトラックが埋めている。"Godless"と"Crime"ではダンス仕様の整ったビートがEBMのダーティーなサウンドスケープを乗り越えていく。最後のトラック"Shallow Pits"は不気味なスポークンワードを軸に構築されており、Throbbing Gristle、Coil、Psychic TVなど、Hoが影響を受けたバンドに対するオマージュのようなものを感じさせる。展開は荒々しく予測不可能で、次の瞬間にはどんなことでも起きてしまいそうな狂気じみた感覚を増幅している。 本作の中で"Suburban Hunting"の収まりはあまりよくないのだが、ある意味、このトラックはBroken English Clubが何たるかを最も上手く表しているのかもしれない。テクノ、ノイズ、インダストリアル、EBM、もしくは、これまでのどんな音楽とも異なるサウンドが大きくうねりを上げているのが"Suburban Hunting"だ。それは瞑想的で突然変異したような唯一無二のサウンドであり、本作が含むすべての要素を、鼓動するひとつの完結した世界へ完全に馴染ませている。さらに、過去のエッセンスをしっかりと保ちながら過去と決別した初めてのトラックでもある。 総じて言えば『Suburban Hunting』は、クラブ、ロック、ライブ演奏、機材のプログラミング、そして、様々なジャンルの過去と現在、といった要素の中間にある澱んだ領域を探索している作品だ。本作に関して自身の意見を求められたHoは次のように語っている(英語サイト)。「映画というか・・・、実在する場所というか・・・、描き出したいと思う絵みたいなものなんだ。だからこのアルバムを絵画のように思っている」。私は本作をパッチワークのようなものだと思っている。昔から大事にされてきたものを繋ぎ合わせた、新しく複雑なデザインを持つパッチワークだ。
  • Tracklist
      01. Nursing Home 02. Vacant 03. Derelict 04. Godless 05. Scum 06. Tourist Zone 07. Crime 08. Suburban Hunting 09. Knives 10. Prayer Space 11. Shallow Pits
RA