Richie Hawtin - From My Mind To Yours

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  • 2か月前、「Plus 8 25/1」が密かにHard Waxの棚に並ぶまで、Richie Hawtin名義で最後に発表されていたクラブ作品は2005年の「The Tunnel / Twin Cities」だった。あの作品以来、彼は変わった。2005年当時、ミニマルは人気の絶頂にあった。そしてその盛り上がりを牽引していたのがHawtinだった。それまでの10年間、彼は十数種類に及ぶ変名のもと数々の重要テクノ作品(加えて、奇妙なハウスクラシック)を制作し、最終的にシーンの動向を左右するミックス(『Decks, EFX & 909, DE9』、『Closer To The Edit and DE9』、『Transitions』)を次々と発表することになった。しかし2005年以降は違った。忙しなく溢れ出てくる創造力は保たれていたものの、The Cube、CNTRLSツアー、Space IbizaでのENTER.、日本酒など、その創造力は音楽制作以外の物事に注がれるようになったのだ。かつてテクノというアートフォームの模範だった彼のDJセットからは、明確な意図が感じられなくなっていき、プロデューサーとしての彼のイメージは遠い昔の記憶になっていった。 先日、HawtinはElectronic Beats(英語サイト)に対し次のように語っていた。「エレクトロニックミュージックという金庫室には、どんな人にも自分だけの小部屋があるんだ。僕の部屋にはほぼ何も入っていなかった・・・。だから僕はそこに新しい要素を加えているんだ」。そのインタビューを通じてHawtinがしきりに語るのは、『From My Mind To Yours』ではリラックスした即興的な創作過程が取られたことだ。彼曰く、収録曲のほとんどはリリース予定ありきで制作されていない(例えば"Stretching"はもともと、彼がレンタルしようとしていたスタジオのサウンドテストとして作られた)。今年初めの休暇中に彼は突然、音楽制作を再開することにしたらしい。収録曲は彼が再びコツを思い出そうとして(彼が言うには「クモの巣掃除をして」)生まれたサウンドだそうだ。 リスナーの視点から見ると、彼の制作再開にどれだけの価値があるのだろうか? それはリスナーに拠るところが大きい。Plastikmanの不気味なアシッドから、F.U.S.E.によるレイヴ寄りのスタイルまで、Hawtinは、クラシックサウンドを生み出したと声を大にして言える希少なアーティストのひとりだ。多くのリスナーは大喜びして彼の新作に飛びつくだろう。Hawtinによる6つの名義から生まれたトラック15曲を収録したパッケージは、DJであれば見た瞬間に買ってしまう。そして『From My Mind To Yours』もある程度はそんな期待に応えている。そのサウンドは無駄が無く、鮮明で、ミックス時に効果を発揮する。たとえ自宅で聞いたとしても、"No Way Back"、"Them"、"Gymnastiks"といったトラックであれば、Hawtin独自の、つまり、透明でがらんとしていて、不吉でありながらも魅惑的な音楽体験へと誘ってくれる。 しかし、ここでは重要なことが見落とされている。今回の収録曲は、かつてHawtin作品を常にスリリングに仕上げていた勢いとエネルギーに欠けているのだ(ある意味、素晴らしいテクノ作品全般にも言えることだ)。F.U.S.E.のクラシックトラック"Substance Abuse"には本当に脅威を感じるのに、新曲のひとつである"Close"になるとタフなふりをしているようにしか聞こえないのは何故なのか分からない。または、Circuit Breakerによる"Systematic"には、クラッシュシンバル、メロディ的な熱狂フレーズ、逆再生したドラムフィルなど、レイヴの典型的要素がすべて含まれているにも関わらず、テンションを上げようとして空回りしている印象になっているのは何故なのか。よく言えば『From My Mind To Yours』はHawtinの黄金期に捧げるオマージュだが、悪く言えば、その黄金期を上手に模倣した作品に過ぎない。 他のアーティストならまだしもHawtinにとってこれは問題だ。彼が掲げる音楽性にとって重要なのは、当初から新鮮でモダンな未来的アイデアだったからだ。それは『From My Mind To Yours』も例外ではない。本作のプレスリリースには次のように書かれている。「当初のPlus 8のビジョンを踏まえ、新しく先進的な音楽をリリースするという、私たちが最初にレーベルを始めたそもそもの理由に立ち返ることによって、この度の節目を祝うことにしました」。先進的になるために老舗レーベルが昔のサウンドに立ち返る。何とも皮肉な話だ。 Hawtinがプロデューサーとして復帰できない訳がない。彼の極めて素晴らしいディスコグラフィーを見れば、彼にはその力があると分かる。そして『From My Mind To Yours』では、当時のグルーヴに立ち返りたいという彼のひたむきな思いが表れている(精彩を欠いたPlastikmanの『EX』に比べると、その点がさらに強く表れている)。しかし、彼が自らの過去から抜け出したいのであれば、現在を生きる新たなサウンドを築いていかなければならない。つまり、単にみんなの称賛を集めようとするのではなく、音楽制作に対する貪欲な姿勢を反映した彼の「今」を捉えた、それでいて独自なサウンドだ(こういったことをさらりとやってのけるお手本を挙げるなら、その筆頭はHawtinの元DJパートナーRicardo Villalobosだ)。今後どうなるかはHawtin次第だ。「クモの巣」は取り払われた。今こそ前に進む時だ。
  • Tracklist
      01. Richie Hawtin - No Way Back 02. Childsplay - Stretching 03. Robotman - Simple Simon 04. F.U.S.E. - Them 05. F.U.S.E. - Close 06. Plastikman - Purrkusiv 07. Plastikman - Gymnastiks 08. Circuit Breaker - Systematic 09. 80xx - Creepr 10. Plastikman - Akrobatix 11. Plastikman - Cirkus 12. 80xx - Creatur 13. 80xx - Grindr 14. Plastikman vs. F.U.S.E. - EXpanded 15. R.H.X. - Xtension