Roman Flügel - Monday Brain

  • Share
  • ダンスミュージックシーンにおいて、Roman Flügelは非常に高い熟練度を誇るプロデューサーのひとりだ。彼の数十年に渡るディスコグラフィー、スタイル、ムード、そして、制作とサウンドデザインに対するアプローチが、他のプロデューサーと混同されてしまうことはないだろう。それにより一貫して新鮮で活力に溢れる音楽が生み出されてきた。それは、知名度の低いプロデューサーたちが活動を停止し、完全にMIDIケーブルを使わなくなってからもずっと続いてきた。そのため、FlügelがHypercolourからリリースする新作2枚組EP「Monday Brain」は驚きの結果だった。Flügelがスベっているように感じられる珍しいケースだからだ。 「Monday Brain」もこれまで通り、他には誰も実現しそうにない、見事に創出されたサウンドと美的感覚が詰め込まれている。ただし、どれも少し熱気に欠ける。ピッチ加工したパーカッションと、きらめくピアノで装飾を施した1曲目の"Teenage Engineering"は、その問題点のいい例だ。トラックは素晴らしいサウンドなのだが、空気が吹き抜けるようなミックスダウンには必要以上の隙間があり、作品の冷え切った感覚が伝わってくる。 他の収録曲では面白いアイデアがいくつかフィーチャーされているが、そのアイデアは完全なトラックへと発展していない。"Make It Happen"では、ざらついたノイズで丹念に加工した、素晴らしく奇妙なパッドが軸となっているが、どこかに先導するでもない、ゆったりとしたベースラインに縛り付けられている。インパクトの少ないドラムアレンジによる"Church Of Dork"は、ブレイクダウン風の展開を所々に挟んだ、長いイントロダクションのようなトラックだ。ベースラインが1分間で抜き去られ、ドラムが素早く続いていき、その後、ベースラインが戻ってくるのだが、どこか及び腰で変化が無い。Flügelはミニマルな要素を少しを取り入れていると言えるかもしれないが、それは、数少ない要素が全体に大きなインパクトをもたらすことを意味している。しっかりと掴むことができる魅力を持った形式が無ければ、こうしたサウンドの効果は失われるだけだ(一方で、今年前半にFlügelが発表した傑作EP「Sliced Africa」(英語サイト)では、似た要素を駆使して見事な結果を生み出していた)。 最後の2曲では幾分、改善の方向に向かっている。Flügel特有の活き活きとしたベルサウンドに対し、IDMを彷彿とさせるカウンターメロディが奏でられる"Picnic For Players"は事実、完成されたサウンドだ。そして、"Vegetarian Leather Jackets"における制作技巧は、それだけで十分にEP1枚分の価値がある。メロディとして調和しない混沌としたサウンド、勢いに乗ったローエンド、ノンストップで刻まれるシンバルヒットにより、大きくうねりを上げるこのトラックは大胆不敵で、少し危険に感じられるほどだ。酷いリリースになっていたかもしれない内容の中、このトラックが最後に収録されていることで、Flügelはまだまだやれることが分かり、一安心だ。
  • Tracklist
      A1 Teenage Engineering B1 Make It Happen B2 Man Sees The Face, God Sees The Heart C1 Church Of Dork C2 Picnic For Players D1 Vegetarian Leather Jackets
RA