Arca - Mutant

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  • レフトフィールドなポップスターたちの引き立て役として、Arcaは魅力的なアーティストだ。歌という形式の縛りの中で制作を行いながら、彼のユニークな音楽はコラボレーションの相手を驚くべき新天地へと連れていく。一方で彼のソロキャリアは、ポップとの妥協点というよりも、緩やかな拒絶だ。彼のソロ作品は酩酊したようなラップによる『Stretch 1 & 2』に始まり、ジャンル間を行き交う無人の領域を、凍てつくメロディが彷徨う昨年の『Xen』に終わっている。『Mutant』は馴染みのある組み合わせからさらに漂い離れている。 本作がもっと分かりやすく提示されていたなら、この方向性は素晴らしいものになっていたかもしれない。『Mutant』に足を踏み入れるのは、彫刻の公園をうろつくのに少し似ている。コンピュータープログラムの助けと、モダンで奇妙なプラスティックを使って制作されたと思われるアブストラクトな作品がこの1枚には満載だ(正確には20曲のトラックが収録されている)。その形式は非凡であり、その表面は眩く輝いている。しかし、それをどのように航海するのかはハッキリとしていない。本作を聞けば感動するのだが、同時に混乱してしまい、出口を探し続けることになる。 しかしながら、輝きを放っているトラックも数曲ある。7分半に渡る"Mutant"は大量の爆発音と、幾列にも及ぶ豪勢なメロディ、そして、ストリングスによるコーダから成るこれまでで最もヘビーなトラックだ。"Sinner"では、ピストンのようなドラムによる殴打がスピーカーを襲う。"Front Load"の厳かなIDMや、"Extent"におけるシンプルなアンビエント空間を導く打ち寄せるコードなど、最も聴き応えがあるのは、馴染みのある場面であることが多い。後者は極めて優美だが、トラックをぐらつかせて緩やかに焦点から外すことができておらず、Arcaはそこからどうすればいいのか分からずにいるように見える。 Arcaの関心が眠っているのはここだと思われる。つまり、彼が生み出すサウンドの外郭と、それを干渉する方法だ。サウンドは爆発して粒子の雲へと変化し、その移ろいは1秒に何度も繰り返され、もしくは、加工されることで、不安定な音高と音色の中を漂っている。本作の半分では、その効果に魅了される。残りの半分では、見当違いのように感じられ、ハッキリと音楽の方向性を示していないことをはぐらかそうとしているように思える。Arcaが繰り広げる無重力空間で最も強力な存在感を放つアクロバティックなメロディも、それほど安心感を与えてはくれない。リスナーを引き寄せる重力の法則が存在しなければ、この手の曲芸的サウンドはそれほど感動的にならないようだ。
  • Tracklist
      01. Alive 02. Mutant 03. Vanity 04. Sinner 05. Anger 06. Sever 07. Beacon 08. Snakes 09. Else 10. Umbilical 11. Hymn 12. Front Load 13. Gratitude 14. EN 15. Siren 16. Extent 17. Enveloped 18. Faggot 19. Soichiro 20. Peonies
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