Brian Harden - Amerigo

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  • UKの新興レーベルであるSounds Of The Cityより、Brian Hardenの新作がリリースされている。若い人にはHardenは馴染みのない名前かもしれないが、実はもう20年以上のキャリアを持つシカゴ・ハウスのベテランだ。90年代中盤にRelief Recordsからデビューしいかにもシカゴ・ハウスらしいファンキーかつソリッドな作風を物にしながらも、並行してGlenn Underground率いるStrictly Jaz Unitのメンバーとしても活動してジャジー・テイスト溢れるハウスも手掛け、決して派手な注目を集めたわけではなかったもののシカゴ勢の中で着実な評価を獲得していたアーティストだ。その集大成的にMoods & Groovesからリリースされた『Instinctive State Of...』は、ファットで滑らかなグルーヴ感と洗練されたジャジー感を上手く纏めた隠れ名盤として思う程だ。 しかしそれ以降Hardenは表舞台から、少なくとも作品をリリースするという点からは10年以上姿を消してしまっていた。もう名前を忘れていた人も多いかもしれない。が突如2014年にフランスのディープ・ハウス系レーベルのD3 Elementsから新作を発表すると、続けてデトロイトのSistrum Recordingsからもリリースを行い、Hardenの復帰を決定付けたのは記憶に新しい。2015年に至っては今回紹介する本作を含めても既に4枚のEPをリリースしているのだから、音楽への創作意欲はかつて以上に膨れ上がっているのだろう。それと共に音楽性はより洗練されモダンな風合いを伴い、耽美さが時間の経過により熟したような大人びたディープ・ハウスへと深化している。 A面の2曲はアップテンポながらも流麗さを磨いた曲調で、快活なアシッドのベースラインを用いながらも端正なパッドのコードラインによってスムースな上昇気流に乗る"Amerigo"、跳ねるようなリズミカルなビートと滴り落ちるような繊細で優雅なピアノによって甘美さを極めた"The Renaissance"と、どちらも過去の作風よりも柔らかくしなやかさを増して円熟しているのが感じられるだろう。B面の"Accents"ではそれがより強調されており、盟友であるGlenn Undergroundがキーボードで参加しているが、優美な煌きを放つエレピの即興性の高い旋律と透明感のあるストリングスによる装飾は余りにもメロウで、それは全く汚れのないスピリチュアルなジャジー・ハウスに聞こえる。同じシカゴ・ハウスのレジェンドでもあるLarry HeardやRon Trentを追随するように、思慮深く内省的ながらもスムースな流れで温かい情緒を生むこの作風は、経験を積んだベテランならではこその芳醇な気品に満ちている。空白の10年に一体何があったのか知る由もないが、しかし復帰以降は溜まっていた意欲が発酵して噴出したかのように音楽性は深みを増し、Hardenの再評価へと繋がる事を保証する如く素晴らしい作品を作っている。これならばきっと旧来からのファンだけでなく、若く新しいリスナーの食指をも動かす事になるであろうと期待をせずにはいられないのだ。
  • Tracklist
      A1 Amerigo A2 The Renaissance B1 Accents
RA