Floating Points - Elaenia

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  • Sam Shepherdは一貫性が非常に高く評価されているアーティストだが、特定のサウンドに長く固執することは決してない。彼はFloating Points名義でリリースするたび、驚異的なまでに巧妙で早熟な才能により、より多くのニュアンスと、より深い複雑性に自身の作品を切り開いてきた。"Nuits Sonores"から"For You"まで、一連なりに変容する彼の作品は、幼少期に培ったクラシックの教養と同等に、Plastic Peopleでのレジデント経験を支えにしている。Shepherdの卓越性のおかげで、彼は自分の道をおかしな方向に踏み外すことはなかった。待望のファーストアルバム『Elaenia』を通じても同じことが言えるのだが、敷き詰められた豪華さにも関わらず、本作には掴めそうで掴めない感覚がある。 クラブカルチャーとのあからさまな繋がりよりも、アンサンブル・アレンジメントの知的主義と瞑想的な電子音が優先されているため、本作から4つ打ちが聞こえてくることは一切無い。構造をこのように解体することで、Shepherdによる楽器の瑞々しい扱い方が少し脚光を浴びることになるべきなのだが、逆に薄暗い状態に引っ込んでしまうという興味深い副作用が生じている。 「Elaenia」を何回か聞いた後、最後から2番目のトラック"For Mamish"が終わるまで、自分が同じ姿勢をしていたことに気付かずにいた。ヘッドフォンを付けて体を丸めたり、スピーカーのボリュームをゆっくりと上げたりしながら、特製の音響フレージングによるレイヤーをもう少し自分に近づけようとすると、細かな電子音の手触りがより鮮明に感じられるようになる。2013年の「Wires」やFloating Points Ensembleの12インチ(英語サイト)といったリリースにおける濃厚なサウンドを鑑みれば、このスタイルは面白いチョイスだ。その比較として、『Elaenia』のジャズファンク作"Silhouettes (I, II, III)"の前半は、クモの糸のように繊細に感じられる。色褪せて透き通りそうなほど軽いシンセのメロディと囁くように静かなドラムを伴う同トラックは、中盤になると、暖かな音色と感情に訴えかけるストリングセクションにより活き活きとし始める。後半になると勢いが緩まり、Tom SkinnerとSusumu Mukaiもようやくゆったりとしたグルーヴに落ち着いていく。 "For Mamish"は最もFloating Pointsらしいトラックだ。パーカッシブな要素は無いが、包み込むようなバスドラムが、霞むような夢心地の空間で浮遊するゆったりとしたローズのメロディに伴走している。"Elaenia"も同様に(もしかしたら、さらに)ドリーミーなトラックだ。ほとんど知覚できないアンビエント・ヒスと、漂うメロディが組み合わされ、優しく眠気を誘う効果を生んでいる。"Thin Air"と"Nespole"は互いの分身であるかのように作用し合っている。どちらもミニマルな構造のグリッドを有機的なテクスチャーに組み合わせており、最終的に"Thin Air"は大量に泡立つ液体音に飲み込まれ、"Nespole"は丸みのある鼓動を鋭角に変形して、ガチガチにプログラミングしたトラックを演じている。 "Argenté"では、7つの音からなるシンセスケールのループから、颯爽と上昇する劇的な作品へと変化していく展開を、熱烈なピアノソロが支えることで、必要なだけのテンションを構築する手助けをするだけでなく、ピーク中にトラックが不意に終了しても、それを心地よく感じさせている。身が引き締まるようなラストトラック"Peroration Six"では、モチーフが繰り返される中、拡張したアンサンブルのリズムセクションが歯を剥き出しにして出迎える。擦り切れたギターの単音が雰囲気を作り出し、ストリングスとホーンが組み合わり、大量のメロディと共に一気に上昇していく。Skinnerによるドラムが地獄の業火を解き放ち、本作は熱狂的なクレッシェンドを迎えた後、突如として停止する。Shepherdによる驚くべき力技だ。 Floating Pointsのファーストアルバムが傑作に仕上がらない訳がないのだが、圧倒的な卓越性が予想以上に掴みづらいものとして表れてしまった。ShepherdのレーベルEgloの完ぺきなカタログは、彼のフォロワーをダンスフロアから引き離してしまう力を持っていたが、『Elaenia』の洗練された音楽的完成度は、そうした人たちをダンスフロアに留めさせるに違いない。
  • Tracklist
      01. Nespole 02. Silhouettes (I, II, II) 03. Elaenia 04. Argenté 05. Thin Air 06. For Marmish 07. Peroration Six
RA