Kelela - Hallucinogen EP

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  • 2013年、ロサンゼルスのシンガーKelela Mizanekristosは、多くのアーティストがキャリアを通じてお目にかかるよりも強力なリリースでソロデビューした。『Cut 4 Me』(英語サイト)は、オリジナルの楽曲と同時に、長きに渡って未来派ダンスミュージックの中で、R&Bとヒップホップのアイデアを駆使してきたレーベルふたつが至った結果を発表する新展開となった。Kelelaを手中に握ったNight SlugsとFade To Mindは、彼らの領域におけるポップを主張し始めたが、Jam City、Kingdom、Bok Bok、Nguzunguzu、Girl Unitらを含む相当数の著名な制作陣を集めたため、同名のミックステープが見劣りしてしまう恐れがあった。それから2年間が経ち、『Future Brown』や「Your Charizmatic Self」(英語サイト)といった重要作へのゲスト参加、豪華な再発(英語サイト)、そして、Warpとのレコード契約に続き、Kelelaが新作と共に帰ってきた。「Hallucinogen」でも引き続き、ArcaやKingdomといったビッグネームをフィーチャーしているが、その中心で輝く彼女自身は、これまで以上に大胆かつ鮮烈で、強い魅力を放っている。 収録トラック6曲に渡って、広範囲の音楽性が展開されており、ダイナミックな歌唱法と、幅広い表現力を披露する機会をKelelaに与えている。初期のシングル"A Message"と"Rewind"では、「Hallucinogen」にどれだけ多くの音楽性が提供されているのかが要約されている。Arcaによってプロデュースされた前者では、恋煩いしたR&Bが、這うように遅いドラッギーなトラックに変化している。一方、後者は80年代のフリースタイルと、無重力シンセポップの影響を等しく感じさせる至福のパーティージャムだ。NguzunguzuのMAにより、"Gomenasai"における低域で満たした強力な一撃が制御され、セクシーなエネルギーによる息をのむ攻勢が展開できる場所を提供している。しかし、Kelelaを囲う枠組みがいかなるものであっても、空間を制御しているのは彼女自身であり、各トラックは彼女の表現力豊かなファルセットとクールな自信をサポートする役目を担っている。 「Hallucinogen」の中盤には"All The Way Down"が収録されている。Drake、Madonna、Tinasheなど、多数のアーティストとコラボレーションを行ってきたDJ Dahiがプロデュースした柔らかなミッドテンポ・バラードだ。Kelelaの数少ないカタログの中で最も明快なトラックになっている。その存在感が放つ衝撃は凄まじい。引き続き、ポップなアウトサイダーとして、彼女はこのトラックにおいて、包み込むような暖かいR&Bに滑らかに移行するだけでなく、数えきれないほどのシルキーなハーモニーと無敵のフックを表現しながら、新たな息吹を見い出している。DJ Dahiによる緩やかなバウンスと、シンガーのCiaraを組み合わせたものを思い浮かべるかもしれないが、精工なメロディ上で奏でられるKelelaの卓越した繊細な抑揚に比肩するものは無さそうだ。"All The Way Down"がラジオでプレイされなければ、それは大きな見過ごしになるであろうことは言うまでもない。 自らの能力をさらにハッキリ打ち出そうとしているかのように、「Hallucinogen」では、非常に奇妙なトラック2曲によって、最も従来型の楽曲をなぞらえている。"Hallucinogen"では再びArcaが登場し、か細いアカペラとヘビーなブロークンビーツを思う存分解放している。そして、"The High"ではGifted & Blessedにより漆黒の闇に突き進む。陰鬱としたトーンに収まっていく場面では、The Weekndを思わずにはいられないが、重ね合わされるKelelaのきらびやかなボーカルを通じて差し込んでくる光は、彼女独自のものだ。暗がりの空間で彼女が甘い吐息を漏らすだけで、楽曲は上昇し始める。まるで力強い声によって、彼女を取り囲む世界が変化していくのを、ゆっくりと受け止めているかのようだ。
  • Tracklist
      01. A Message 02. Gomenasai 03. Rewind 04. All The Way Down 05. Hallucinogen 06. The High
RA