St Germain - St Germain

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  • Ludovic NavarreによるSt Germain名義のアルバム2枚は、名義の由来であるパリの地区を確固として彷彿させようとしているようだった。ろうそくに照らされた地下クラブにいるかのようにスモーキーなジャズが旋回し、F Communicationsから発表した彼の初期シングルにインスピレーションを与えたディープハウスのリズムとブルージーなギターには、Left Bankカルチャーなど、他のブラックアメリカンからの影響を肯定する彼の姿があった。なるほど、確かに彼の音楽はパリにおけるそうしたロマンティックな視野を提示しており、エッフェルタワーの絵ハガキを音で表現したような印象だった(2000年の『Tourist』というタイトルもそれを示唆していたのかもしれない)。 それから15年が経ち、マリを旅行した後にパリのスタジオでレコーディングされたセルフタイトルのニューアルバムが発表された今、ツーリストだったのはNavarre自身なのではないかと思う。『St Germain』の制作にあたって彼が採用したのは、『Tourist』で聞くことができたジャズアンサンブルではなく、マリの外国人コミュニティに住むミュージシャンたちだった。プログラマーであり、ミュージックディレクターでもあるNavarreは、多くの場面で自分の存在をほとんど感じさせない微細な推移を導く人物だ。"Family Tree"や"Sittin' Here"といったトラックの核には抑制したハウスビートが流れ、一方で"Mary L"は彼が時折見せるダブの戯れが表れた1曲だ。しかし、いずれも彼のアンセム的トラック"Rose Rouge"のようなダンスフロアの重みは無い。その代わりにNavarreが活用しているのは、コラ奏者のMamadou Cherif Soumanoや、ギタリストのGuimba Kouyate、そして、ボーカリストのFanta Bagayogoといったゲストミュージシャンによる一連の素晴らしいパフォーマンスを演出する控え目なアレンジだ。"Real Blues"や"How Dare You"におけるブルーズのサンプルは彼の初期作品で使われなかった余り物のように聞こえるが、ギターサウンドにはTinariwenのようなデザートブルーズバンドの埃がこびり付く焦げ付いたクオリティがある。 『St Germain』の制作と発表までにかかった時間を考えると、Navarreが焦って制作に取り組んでいなかったのは明らかであり、本作を聞くにあたっても同様にあくせくしない状態に沈み込むのが最も相応しい態度だ。コラを奏でるSoumanoの指先が紡ぐ音旅行に身を任せ、楽器間で囁かれる会話に耳をすませてみてほしい。ギターとンゴニが絡み合うKouyateの演奏にBagayogoの悲しげなボーカルが颯爽と流れ込む"Voila"のような場面には、Navarreの初期作品と同等の豊かで空間的な光景が出現する。それは以前の彼とは異なるものだ。しかし同時に、そこからは実に心地よさそうにしている彼の新たな一面が見受けられるのである。
  • Tracklist
      01. Real Blues 02. Sittin Here 03. Hanky Panky 04. Voila 05. Family Tree 06. How Dare You 07. Mary L 08. Forget Me Not