Sam Binga - Wasted Days

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  • Sam Binga名義により、Sam Simpsonは遂に居場所を見つけたようだ。Baobingaを名乗っていた頃の彼は、2000年代中期におけるブレイクスシーンの先導役であり、その後、数々のコラボレーションを活用してカメレオンのように様々な色彩を持つベースミュージックを制作するようになった。彼はKowton、Hyetal、xxxyらと共に制作するようになり、I.D.と共にBehling & Simpsonとしてハウスミュージックにも挑んだ(他にもブリストルのあらゆるアーティストとハウスミュージックを制作している)。しかし、2013年にSimpsonは新たなスタートを切るため名義を変更した。思いがけずにだとは思うが、今回、そんな彼が手を組んだのは、以前から王道的なドラムベースで名を馳せているレーベルCritical Musicだった。 しかし、彼が辿ろうとしていたのは王道的なサウンドではなかった。Simpsonは50 Weaponsと並行してCritical Musicをプラットフォームとして活用することで、このふたつの中間に位置するところに自身のインスピレーションを求めている。彼の新たなサウンドはドラム&ベースよりも遅く、フットワークよりも広々としており、性急でエネルギッシュ、そして、豊かなテクスチャーを伴っている。Sam Bingaとして彼がこれまでにリリースしてきた作品(Addison GrooveやOm Unitとのコラボレーションを含む)は、彼の最高峰として位置づけられるが、それは『Wasted Days』にも引き継がれている。ボーカルを多用したこのLPは、カメレオンではなく、姿かたちそのものさえ変化してみせる存在として彼を打ち出している。 『Wasted Days』は3分間の楽曲で溢れているが、そこにはその2倍の尺を持つ多数のドラム&ベースよりも多くのアイデアが詰め込まれている。Simpsonが素晴らしいのは、それを悪影響に感じさせないところだ。"Wasted Days"では、絶え間ないバースからドロップの連鎖へと滑り込む様が、いつになくスムーズだ。他の楽曲では、瑞々しいシンセサイザーが降り注ぎ、リズムパートのジャブ攻勢から絶縁体のように身を守ってくれる。"Run The Dance"では、グライムの激しい猛攻をパニック状態に変化させ、"Badman Skin"ではSimpsonの最もウォブリーな領域を引き出し、威圧的な"Mind & Spirit"ではトラップの影響を通じてドラム&ベースをアレンジしている。このように焦点があらゆるところに忙しなく動き回る中、見事にハマっているのがボーカルたちだ。Redderの荒々しく巧みなラップは、Simpsonによる全開のドラミングを見事に包み込む。Chimpo、Fox、Warrior Queen、Rider Shafiqueもしっかりと任務を遂行しており、彼らのバースはリズムに注がれる統制された同様のエネルギーと共に咆哮を上げている。 『Wasted Days』はボーカルパフォーマンスを中心に構築されている場合がほとんどだが、その中で少数のインストトラックはさらに強い魅力を放っている。Critical Musicの所属アーティストHyroglificsとのコラボレーション"Dark Day"は、本作で最も重要で魅力的なトラックだ。BPM127にまでテンポを落とし、悲しげなシンセと巻き上げたドラムブレイクスを搭載した同トラックにおいて、溜め息のごとく吐き出されるパッドはAutonomicを感じさせ、狂気全開の本作で小休止となる場面を提供している。歯切れのよいBPM160の強力トラック"Reclaim"ではOm Unitが跳ね、"I Tol U"ではSimpsonがソロを披露する。このソロ作は期待通り、ほぼドラムサウンドによるトラックとなっており、Baobingaの初期を肯定的にアップデートした枠組みで提示している。 Simpsonのプロダクションスタイルは特異だが、この境界域で彼は完全に独りきりである訳ではない。『Wasted Days』に起用されているのは、フットワーク、ドラム&ベース、ジャングルといった要素から、時として「スロー/ファスト」と称される予測不可能で躍動感溢れるサウンドを作り出す一連のプロデューサーたちだ。その中でSimpsonを際立たせているのは、全てを網羅する彼のアプローチだ(本作では、"Necessary"や"Steppin VIP"といった轟きを上げるトラックが、"Stormy Weather"のようなドラム&ベース・スロージャムと一緒に収録されている)。コラボレーターが数多く起用されているにも関わらず、本作は彼にとって最もパーソナルな作品だ。自身のアイデアを肉付けするにあたり、長きに渡って第三者に信頼を置いてきたアーティストということを考えれば、『Wasted Days』で最も印象的なのは、そこから感じ取れる作品の完成度の高さだろう。
  • Tracklist
      01. Believe feat. Redders, Rider Shafique 02. Wasted Days feat. Warrior Queen 03. Pound 4 Pound feat. Redders, Rider Shafique 04. Bad Bish feat. TT The Artist 05. Run The Dance feat. Slick Don 06. Dark Day feat. Hyroglifics 07. Stormy Weather feat. Rudey Lee 08. Mind & Spirit feat. Rider Shafique 09. Badman Skin feat. Redders 10. Necessary feat. Fox, Rider Shafique, Chimpo 11. I Tol U 12. Reclaim feat. Om Unit 13. Greatest Distance feat. Romaine 14. Steppin VIP feat. Chimpo, Fox, Redders, Deft Digital Only: One6Nine Digital Only: Boongooz Digital Only: Dub & Spirit
RA