Pole - Wald

  • Share
  • ダブテクノを発明したのはBasic Channelかもしれないが、Pole(aka Stefan Betke)も90年代に番号を付した一連のアルバム(英語サイト)をリリースする間、現代のテクノにおいて感情をかき立てるサウンドを構築するにあたり、重要な役割を果たしていた。ダブレゲエを純粋な残響にまで削ぎ落したようなローエンドがじっとりと鼓動する彼のトラックには、分厚いスタティックノイズとヒスノイズが塗りつけられていた。ベースラインのようなものは一切無く、そこにあるのは可聴帯域以下の残効、つまり、埋もれた振動、そして、大地を揺るがす振動だけだった。 Betkeがスタイルの狭さに辟易するのは当然のことだったが、『Pole』で披露したまだらなレフトフィールドヒップホップや、2007年に発表したオーソドックスなエレクトロニカアルバム『Steingarten』など、そこから抜け出そうとする彼の試みは、それほど印象的ではなかった。しかし今回、そうした作品よりも素晴らしいものを彼は成し遂げている。 "Wurzel (Live)"と"Aue (Live)"では、ハーフステップのリズムや、全体に熱帯的な温度を持った空気の中に、長きに渡ってダブレゲエ好んできたBetkeの姿が表れている。しかし、こうしたトラックには新たな遊び心があり、そして、ノスタルジア的なアイデア一切を一掃するアレンジメントには新たな豊かさがある。『Wald』に収録されたそれ以外のトラックでは、はるか彼方に突き進む。散り散りになった重厚でグリッチのような低音、長い時間をかけてじりじりと焦げ付くサウンド、ラップトップで加工した干渉音など、そのベーシックな音響構造は、まさに『Pole』だ。しかしそのサウンドは、現行のベースミュージックから生まれた未知なる派生物かのようだ。 Betkeによる複合的なアレンジがこれほど感情的に柔らかく、自由で、楽しそうだと感じたことはこれまで一度も無かった。それが特に当てはまるのが"Moos (Live)"と"Myzel"であり、ここから『Wald』が本格的にスタートする。前者で使われている切ないパッドと怒号を挙げるベースラインはZombyを思わせるが、からからと湧いて出て来る簡素なパーカッションや、加工したギターから立ち上がる熱は、Fenneszの方に近い。Betkeは自信を持ってこうした要素を扱っており、悲しみと同時に、溢れんばかりのテンションとファンクネスを感じさせるトラックを生み出している。従来のメロディが欠けていると思うかもしれないが、弦を爪弾いたような複雑な音や、ピンと弾けるような音が使われている"Moos (Live)"は耳にこびりついて全く離れなくなる。Plaid風の"Myzel"は実験的なテクスチャーにも関わらず、気怠いシンセとゆっくりとスウィングするリズムには、イビザの日暮れ時に流れるクラシックな感覚がある。 本作は技術面における素晴らしい能力と創造力を記録したものだ。にも関わらず、ソウルフルで誠実な作品である。8年間に渡って忍耐強く待ち続け、遂に新鮮で独自だとBetkeが判断してリリースされた『Wald』は、Betkeの芸術的完成度の証となっている。
  • Tracklist
      01. Kautz 02. Salamander 03. Moos (Live) 04. Myzel 05. Wurzel (Live) 06. Aue (Live) 07. Käfer 08. Fichte 09. Eichelhäher
RA