Idjut Boys - Versions

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  • 最近ほとんど語られなくなったが、2000年頃に英国で賑わっていたニューハウスシーンは、同国のクラブカルチャーにおける重要な連結点だった。レーベル、Nuphonicを緩やかに基盤としながら(それゆえに、nu-houseという名前になった)、ニューハウスにより、多数のクラブマイノリティたちが「ハウスは多岐に渡って拡散可能なサイケデリックかつロウな音楽になり得る」というアイデアに目覚めた。DJ HarveyのフォロワーであるIdjut Boysは、ニューハウスという言葉から自身を切り離そうとしていたが、このサウンドにおける重要人物だった。 温もり、密度、そして、長尺という点において、Idjut BoysのふたりであるConrad McDonnellとDan Tylerが制作するトラックはParadise Garageのクラシックなディスコに類似しているが、ダブレゲエ、初期シカゴハウス、そして、Fela Kutiによる70年代のアフリカンファンクにインスピレーションを求めている。大型スーパークラブにより、ハードでプログレッシブなサウンドがハウスで最も一般的になっていた時代に、Idjut Boysはアウトサイダー的ヒーローのような印象だった。自身のレーベル、U-Starから発表される作品は、プレスされる重量盤のように重みが感じられた。 さらに近年になると、ふたりはニューディスコ/ネオバレアリックシーンにて新たな同志となるアーティストを見つけ、彼らが発表する作品には、イビザの日没時に訪れる至福の空気が取り込まれてきた。彼らが2012年に発表したアルバム『Cellar Door』に収録されたトラックの別バージョンをまとめた本作では、気怠いベースラインや、揺らめくアコースティックギター、そして、気ままに爪弾かれるリードメロディが一貫して用いられている。現在、バレアリックミュージックの多くは安っぽく平凡なサウンドだが、Idjut Boysはメロディに対する鋭いセンスを持ち、予期せぬ展開を好むため、彼らのトラックは常にタイトで驚きに溢れるものとなる。例えば、"Another Bird"は、Fleetwood Macの"Albatross"のように穏やかだが、Sally Rodgersをフィーチャーした"Going Down"は、ポップなインディーダンストラックから、突如、海中で鳴らされているようなブラスのサンプルと、軽めのパーカッションによる展開へと変化していく。 Idjut Boysが90年代に発表した作品のように、トラックをエコーとリバーブに漬け込んで、ディープでダビーに仕上げる時の彼らが、今でも一番だ。例えば、痛烈なビートと図太く仰々しいベースラインの周りを、キーボードとギター、そして、ドラムが旋回する"Kenny Dub Headband"は実に素晴らしい。同様に、気が狂いそうになる限界までステレオパンニングを駆使した"Lovehunter Dub"や、ざらついたクラウトディスコトラック"Le Wasuk"では、20年経った今でも、Idjut Boysのサウンドを独特にする軽めのタッチと深みが感じられる。
  • Tracklist
      01. Ambient Rab 02. Kenny Dub Headband 03. Dub Shine 04. Another Bird 05. Going Down 06. Lovehunter Dub 07. Le Wasuk
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