AIAIAI - TMA-2 Modular

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  • AIAIAIのTMA-2 Modularのレビューを書くのは少々滑稽に思える。というのも、筆者が原稿を書いているラップトップの横にはスピーカー4種類、イヤーパッド5種類(オンイヤー3種類、オーバーイヤー2種類)、ヘッドバンド3種類、ケーブル6本、言い換えれば、360通りのユニークな組み合わせが生み出せる大量のパーツが置かれているからだ。そのすべての組み合わせがそれぞれ大きな違いを生み出すわけではないが、いずれにせよ、TMA-2には決められた組み合わせが存在しない。他のヘッドフォンを購入するとき、私たちは特定の機能に対するアイディアをあらかじめ持っており、そのアイディアに合いそうなモデルやメーカーを買い求める。しかし、TMA-2では、自分がヘッドフォンにどんな機能を求めているのかについてより広範囲に考え、それに沿う形で自分好みのヘッドフォンを組み上げることができる。高品質で、多種多様なオプションが揃っているこのシステムは、理論的には自分にとってパーフェクトなヘッドフォンに近づけるということになる。 しかし、正直に言うと、TMA-2に触れる前の筆者は、理想のヘッドフォンについてこのアプローチで考えたことがなかった。今まで新しいヘッドフォンを購入するときは、DJ用、ホームリスニング用、移動用の3種類に分けて考え、それぞれ良いと言われる製品を購入していた。そしてそのあとで、もし気に入らなければ次の購入時に他の製品を試し、よっぽど酷い製品だと思える場合は即座に売り払っていた。筆者のサウンドと装着感の好みは時間と共に作り上げられていったのだ。しかし、TMA-2のテストでは、自分がヘッドフォンに何を求めているのかを考え、実際の組み上げも行わなければならなかった。そこで今回は、高精度でしっかりとしたフィット感のDJ用ヘッドフォンと、高精度ながらDJ用よりも耳当たりが良いサウンドのスタジオ/ホームリスニング用ヘッドフォンという2種類のヘッドフォンを組み上げることをゴールとし、360通りの中から、その目的に適していると思われる限りの組み合わせを試しつつ、全体のサウンドと作りのクオリティを評価していった。 DJにとって、AIAIAIは前モデルTMA-1から続く歴史を持つ、信頼できるヘッドフォンメーカーであり、筆者はこのメーカーの、クリーン且つミニマルで、ややハイテクという美学をリスペクトしており、友人のTMA-1を使ってDJも楽しんできた(個人的にはTMA-1の低音重視の設定よりも、自分が使っているSennheiser HD-25の飾り気のないサウンドの方が好みだが)。そのTMA-1は「Preset(プリセット)」としてTMA-2のシステム内に残されており、ひとつのセットとして購入できる。筆者は手始めとしてそのTMA-1をベースにしたTMA-2 DJ Presetを選択した。箱の中には、銀色のパッケージに “punchy”(パンチのある)と表記されたスピーカーユニットS02、ポリウレタンレザー製イヤーパッドE02、 “rugged”(頑丈)と表記されたヘッドバンドH02、コイルケーブルC02が入っていた。組み立て方は非常にシンプルだ:まず、ヘッドバンドの右側のリードをスピーカーユニットの赤いプラグに差し込み、ヘッドバンドにはめるという作業を左右で行う。その後、イヤーパッドをスピーカーユニットに装着し、好きな側のスピーカーユニットにメインケーブルを接続する。そして最後に接続したケーブルがアクシデントで外れることがないよう、ユニット側で90度回転させてロックする。筆者は組み立てた瞬間からこのヘッドフォンのルックスと感触に好感を持った。美しいマットフィニッシュと優れたデザインはAIAIAIの特徴であり、装着感も快適且つタイトで、重さも信頼感が得られるものだ(尚、数回力を入れてヘッドバンドを曲げてみたが、AIAIAIの初期ヘッドフォンに見られた、素材が壊れる・痛むような兆候はなかった)。DJ用ヘッドフォンとしては、プロフェッショナルな専用モデルという感触を得た(もしブースに置いてあれば使うだろう)が、感覚を掴むために何枚かのテクノレコードをミックスしてみると、より自分好みのサウンドに近づけたいと思うようになった。このDJ用プリセットはトラックのリズム要素を引き出す点においては素晴らしいが、個人的にはミックスする際にはよりクリーン且つ控えめで、正確なサウンドが好みだ。 そのサウンドを手に入れるべく、まずはイヤーパッドを変更した。個人的にはDJ用ヘッドフォンはオンイヤータイプが好みで、また、オーバーイヤータイプはリスニング用に残しておきたいという理由から、残り2種類のオンイヤータイプを試すことにした。そこでまず、マイクロファイバー製のE01を試してみたが、サウンドは完全に間違った方向へ進んでしまった。DJ Presetが低音にパンチを加える組み合わせとするならば、E01との組み合わせは、中低域を強調してしまい、不鮮明で籠もったサウンドに変わってしまった。次にベロア製のE03に変えると、全体的にバランスが取れたフラットなサウンドになったが、中高域と高域がやや冷淡に聴こえた。そこで、パッケージに “vibrant” (鮮明)と記されたハイエンドのスピーカーユニットS04なら、このE03に合うのではないかと考えたのだが、結果はその通りで、自分が求めていたクリーンで正直だが、同時にパワフルなサウンドが得られた。しかし、E03の装着感はE02よりも快適ではなく、汗をかくクラブに向いているとは思えなかったため、S04とデフォルトのE02の組み合わせに変えた。しかし、装着感は良くなったが、サウンドはS02/E02とS04/E03の中間という印象だった。結果としては、どの組み合わせも甲乙つけがたい引き分けに終わった。しかし、スピーカーユニットだけで考えれば、S04が好みだ。 次にリスニング用だが、こちらもまずはプリセット(Studio Preset)から始めていった。このプリセットは、“warm” と表記されたS03とポリウレタンレザー製のE04(オーバーイヤー)、“high comfort” と表記されたヘッドバンドH03(H02よりもパッドが分厚い)、ケーブルC02(尚、DJ用としては、断線を防ぐことができる編み込みタイプのC04が最適だという結論に至った)で構成されている。このプリセットは確かに温かいサウンドだったが、個人的には更に高精度で活き活きとしたサウンドが欲しかったため、まず、イヤーパッドをマイクロファイバー製のE05に変更した。この組み合わせは、筆者が求めていた楽しさや明るさは得られなかったが、様々なジャンル(ハウス、テクノ、ディスコに加え、ヴォーカルがそれなりに盛り込まれたロックとポップをプレイした)で高精度なサウンドを提供した。慣れて行くにつれ、これは信頼できる組み合わせだということが理解できるようになった。次にサウンドユニットS04を試したが、これはオーバーイヤータイプと相性が良く、E04では温かくフラットなサウンド、E05では活き活きとしたサウンドが得られた。S04/E05の組み合わせは、ホームリスニング用としてはかなり好印象だったが、レコーディングのレファレンス用としては、派手さが抑制されたS03/E05やS04/E04のサウンドが好みだった。S04/E05がユニークなサウンドのヘッドフォンとして強く印象に残ったものの、リスニング用もDJ用に続き、引き分けに終わった。 今回、DJ用とリスニング用を試していく中で、様々なオプションを見出すことができた。例えばS01は低域重視だが、組み合わせによっては驚くほどハイクオリティなサウンドになる。中でも、マイクロファイバー製イヤーパッドE01、細身のヘッドバンドH01、携行性に優れたケーブルC01と組み合わせたAll-Round Presetは、低価格ながらクリスピーで分離の良いサウンドが得られ、筆者のお気に入りのひとつとなった。このプリセットを精度の高さが求められる時に使用することはないが、小さめの移動用ヘッドフォンとしては好感を持てた。また、S02はオンイヤーでは気に入らなかったが、オーバーイヤーではこのサウンドユニットのパワフルなドライバに必要なだけの空間が得られたように感じた。尚、ケーブルとヘッドバンドはそこまで大きな違いを生み出すパーツではないが、人によっては大きな違いになることも理解できた。例えば、筆者の場合は、DJ用として最終的に組んだヘッドフォンには、ミックス時に首にかけた感触が素晴らしかったという理由から、H03を選択することになった。 全体的には、こちらが妥協をしなくて済むTMA-2のシステムには好感を持った。これは「最高」の組み合わせを探すというよりも、「自分に適した」組み合わせを探すシステムだ。しかし、今回のテストではすべてのパーツが手元に用意されていたため、筆者は自由に組み合わせの取捨選択ができたが、大半の人はオンラインでパーツを選択し、それらが自分にとって正解であることを祈ることになるという点は書いておくべきだろう(とはいえ、AIAIAIは画面上で組み合わせが試せるページや各パーツの詳細、ジャンル別の組み合わせ例、Marcel Dettmannなどのアーティストの組み合わせ例など、選択の助けとなるツール(日本語版はこちら)を数多く用意している他、気に入らなかった人のために30日以内の返品を受け付けている)。このコンセプトのカスタマイズオプションと自由度は、ヘッドフォンを購入しようとしている大半の人にとっては必要以上(間違いなく既に組まれた中から自分のニーズと予算に見合ったものを見つけられるはずだ)と言えるものだが、AIAIAIのユニークなルックスと感触が好きな人(そして超ハイエンドのレファレンス用・オーディオマニア用を探していない人)にとっては、TMA-2はその独自の世界の中に自分向きのヘッドフォンが必ずあるということを保証してくれる存在ということになる。 Ratings: Sound: 3.8 Cost: 4.0 Build: 4.0 Versatility: 4.5
RA