Surgeon - Tresor '97 - '99

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  • テクノの歴史を段階的に見る傾向が自然になっている。最初はどんなサウンドもデトロイトテクノに似ていた。そして1990年代を通じて、特にヨーロッパではテクノはますますハードに、そして、ますますテンポが速くなっていき、知的さが失われていった。ミニマル時代に入り一大勢力として再び現れてきた時のテクノは、より細かな変化になり、はっきりとした全体像を持たなくなっていった。しかし、Surgeonが活動初期に作成した3枚のアルバム再発盤が明らかにしているのは、前述のようにテクノを広義に一般化することは、厳密に見れば、ほころびがあるということだ。 『Basictonalvocabulary』、『Balance』、そして、『Force + Form』がリリースされたのは、Tresorがトレンドメイカーとして存在していた時代だ。この3作品は「1990年代後期に至るまでにヨーロッパのテクノはクリエイティブ面において崩壊していた」という意見を高らかに否定している。Anthony Child(aka Surgeon)の場合、ノイズ、ミニマリズム(美しく脳裏に張り付いて離れない"Waiting"を聞いてみてほしい)、ミュージックコンクレートを当時から既に探求しており、『Force + Form』では、取り留めなく尺を伸ばしたトラックを展開していた。そうした長尺ものがテクノで一般化するよりも随分前のことだ。2011年に高い評価を獲得した『Breaking The Frame』を発表したChildは、こうした要素に突然感化された訳ではない。彼は何も変わっていない。変わったのはテクノの方だ。そして、世の中が一周して彼の考えに再び戻ってきたのである。 暴力的なまでに強烈で生々しく澱んでいながら、往々にしてファンキーな要素を持っている『Basictonalvocabulary』(個人的に今回の3作の中でもイチオシだ)の収録曲は、ほぼすべて今日のクラブにおいても破壊的な効果をもたらし得る。もしMarcel DettmannとBen Klockがズタズタに切り裂く"Rotunda"や"Movement"を定期的にプレイしていなければ、絶対にプレイすべきだ。このトラックでは、高速かつ神経質な推進力が触媒となり超越的な恍惚の場面が生み出される。このように悦楽としてのエネルギーも作品には流れているが、それはダークなテクノの冷淡な提供者としてのChildの知覚とは正反対だ。他のアーティストと同じく、怒りと痛みが彼の作品の根幹だが、『Balance』における"The Heath"や"Set Two"のように、吹き飛ばすようなヘビーなパーカッシブなトラックさえも、明るく照らされた"Golden"や、ラップトップによる繊細な旋回音とクリック音を用いた"Dialogue"、そして、エコーに浸した電子室内音楽"Dinah's Dream"といったトラックに挟まれている。Childは痛々しい外観の内側に大きな心を持っているのである。 余りにも多くのアルバムが再発されていることは間違いない。ダンスミュージックに圧し掛かる歴史の重みに潰されてしまいそうですらある。しかし、Childに今回の再発の機会を与えない訳にはいかないだろう。『Tresor '97 - '99』により、Surgeonに対するイメージをもう一度考え直すことになるだけでなく、彼の作品がいかに現代的であるかという点において、現在出回っているテクノは厳しい問いを投げかけられることになるだろう。20年も以前に発表されたこの3枚のアルバムやBasic Channelのバックカタログにおいて打ち出されるサウンドを耳にする時、昨今のシーンはどれだけ進化していると言えるのだろうか?
  • Tracklist
      Basictonalvocabulary: 01. (Intro) 02. First 03. Krautrock 04. Movement 05. 9 Hours into the Future 06. Depart 07. Rotunda 08. Waiting 09. Scorn 10. Return Balance: 01. Preview 02. Golden 03. Circles 04. The Heath 05. Pnuma 06. Set One 07. Set Two 08. Box 09. Dialogue 10. Dinah's Dream Force + Form: 01. Remants of What Once Was 02. Black Jackal Throwbacks 03. Returning To The Purity Of Current 04. At The Heart Of It All