RP Boo - Fingers, Bank Pads & Shoe Prints

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  • RP Booの音楽は挑戦的だ。玄人好みという意味でではなく、その捻じれたリズムが踊り手にとって挑戦的であるという意味だ。音楽に合わせて踊るダンサーの限界を押し広げようとするために作られたのがフットワークの元々の成り立ちだ。シカゴでは体育の授業やコミュニティセンターのサークルで興じられ、その名の通り、人々の足を忙しなく動かしている。フットワークは速ければ速いほど、そして、シンコペートしていればいるほど、ダンサーにはさらなる試練となる。対戦相手が疲弊してパスするか、ステップを誤ってしまうまで、ダンサーはグルーヴをキープしたまま音楽の合図に答え続けなければならない。ベテランダンサーでもあるRP Booは、全く踊れないほどリズムを完全に無秩序な状態にしてしまうことなく、ダンサーたちを限界へと挑戦させることが自分の仕事であることをしっかりと理解している。 かつて、Footworkのドキュメンタリー制作者であるWills Glasspiegelは、RP Booのヒプノティックなボーカルループは、Steve Reichによるテープレコーダーを使った実験作、"It's Gonna Rain"や"Come Out"に似た効果を生み出すことを指摘していた。RP Booのトラックでは「motherfuck your favourite DJ」のような野次/罵倒がトラックの最初から最後まで使われていることが多い。同じフレーズが何度も繰り返されることで、その音の受け取り方が変化する。そして、そのフレーズが持っていた元々の意味が失われ始め、新たな視点が生まれ、輪郭が歪みだす。Glasspiegelはその現象を「バトルトランス」と呼んだ。時間の流れが歪み、微妙な変化と緊張感にダンサーたちを順応させるまで集中力が高まっている状態だ。Booのビートがこれほど強力な吸引力を持っている理由のひとつは、このトランス的傾向と彼の音楽が持つ不規則な要素(突如炸裂するオペラの歌声や、爆発音のようにドラムマシンが入り混じったサウンド、そして、自分の彼女を奪われたことに対する攻撃的な罵倒など)の間にあるテンションだ。身の毛もよだつシネマティックなアンビエンスに対する才能がそこに加われば、リスナーはパラノイア状態になり、何かが飛び込んでこようとしているにもかかわらず、ただじっとしていることしかできなくなってしまう。 『Fingers, Bank Pads & Shoe Prints』は前作『Legacy』ほどきらびやかではない。『Legacy』を特徴づけていたのは、数学的なリズム強度だ。目まぐるしい速さのアレンジメントテクニックがその良い例(トラックのスピードの2/3にあたるタイミングでサンプルがループされているため、正確にリズムに乗っている訳ではないが、ダウンビートのタイミングにちょうど合う時もある)である。今回の新作LPは比較的、抑制されており、搔き乱すような場面は少なく、グルーヴの変化が多くなっている。 最近、Planet Muから再発された「Classics」(英語サイト)の収録曲など、RP Booの初期作品を彷彿とさせる場面が本作には収められている。つまり、後に定式化する多くのシンコペーションスタイルを予兆しつつも、90年代のゲットーハウスが持つパーティー仕様のリズムから脱していないサウンドだ。"Bang'n On King Dr."や"Hear From Us"といったトラックには、見せ場となる要素が含まれているが、ダンサーにとってはノリが掴みやすくなっている。例えば、4つ打ちのリズムと痙攣系のサンプルがトラックの周りを2周した後、何事も無かったかのようにカッチリと挿入されるアレンジが施されている。"Daddy's Home"はRP Booの伝統とも言えるトラックだ。不意にトラックに飛び込んでくる濃厚なソウルの歌声の下では年代物のアクション映画のサンプルが叫び声を上げている。一方で、"Let's Dance Again"の土台となっているのは浮遊感のあるボーカルハーモニーであり、柔らかく豊かな感性を持つBooの別の一面を表している。本作では、進化は往々にして過去の反芻を必要とすることがよく分かる。そして、RP Booは20年近く前にフットワークを発明して以来、シーンで活動してきているが、彼はまだまだアーティストとして進化を続けていることが証明されている。
  • Tracklist
      01. 1-2D-20'2 02. Bang'n On King Dr. 03. Your Choice 04. Freezaburn 05. Heat From Us 06. Kemosabe 07. Finish Line D'jayz 08. Daddy's Home 09. Let's Dance Again 10. Sleepy 11. I'm Laughing 12. Beat Me 13. Suicide 14. B'Ware
RA