Cio D'Or - all in all

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  • 2009年にPrologueから発表されたCio D'Orのファーストアルバム『Die Faser』(英語サイト)は、ディープテクノムーブメントの初頭において頂点を極めた作品だ。このアルバムは、音数を抑え、暖かく、絶え間なくヒプノティックなスタイル(ある人たちにはヘッドファック・テクノとして知られている)を絶妙に掴み取っていた。以来、ケルンで活動を続けるCio D'Orによる隙間を多く取った作品は、リズムに対する幅広いアプローチに加え、一見マイクロスコピックにさえ思えるサウンドデザインにフォーカスするようになっていった。『Die Faser』から約6年が経った今(そして、度重なる製造工程の遅れを経て)、『all in all』と共に彼女が帰還する。SvrecaのレーベルSemanticaを通じて届けられた本作は、シーンきっての勇敢なアーティストとして彼女の地位を確固たるものにするであろう先見性に満ちたアルバムだ。 『all in all』は4曲のトラックからなるチャプターから成り立っている。オーケストラや映画音楽を好むD'Orを反映している「after and before」、意識がねじ曲がりそうなDJ仕様のトラックがまとめられた「floor X」、タビーなトラックが多様に詰まった「yocta to yotta」の3つのチャプターだ。聞いた瞬間に認識できる特徴を持って編み込まれた『Die Faser』だが、それに匹敵するまとまりは、本作には無いのかもしれない。しかし、本作は独自の世界観を有し、これまでで最も大胆で実験的なD'Orの音楽を収めたアルバムである。「after and before」に含まれている"tomorrow was yesterday"では、彼女のトレードマークである軽めのパーカッションがドラマティックなストリングスが織り成すコーラスの間を駆け抜けている。展開を抑え、広々とした空間が広がる"now is ever"では、大地を揺るがす正確な機械音の上に切なく鳴り響くピアノのモチーフを重ね合わせている。脳に訴えかけてくるテクスチャーで満たされている点は、もうひとつの型破りなトラック"hecto"と同じだ。「yocta to yotta」に含まれた"hecto"は、アジアを巡った旅からインスパイアされたという。従来性からうれしそうに逸脱していくこのトラックは、シンセサイズされた東洋のメロディと花火のように弾けるリズムを存分に楽しんでいる。 もちろん、本作にはダンスフロア直系の魅力を持った陶酔性のあるトラックもしっかりと収録されている。「floor X」(なんとも適切なタイトルだ)では、Cio D'Or印のブリープテクノが全開だ。"XXXIII"、"XI"、そして、"XXII"は、鳥のさえずり、もしくは、宇宙に響き渡るサイレンを思わせるような特徴的な透明感のある美しい音色で満たされている。着々と大きく展開していく"XXXIII"やフューチャリスティックなブロークンビーツトラック"XXII"では、ブリープ音のパターンに合わせて方々に拡散していくアシッドなリフが解き放たれている。一方、"XI"は孤独感が響き渡る極上のトラックだ。 "XLIV for Mike"はD'Orの友人であり、同じくサウンド偏執狂であるMike Parkerに捧げられている。このトラックからは、バッファローのアーティストであるMike Parkerの脳裏にまとわりつくミニマルなアプローチに影響を受けていることがハッキリと分かり、他の収録曲においても聞くことのできる特徴的な爆発音がここでもフィーチャーされている。同様に沈着なトラック「yocta to yotta」の"yotta"は、うっすらと照らされた橋梁のように、"hecto"の至福感からラストの"yocta"と"zepto"へと流れを繋げている。"yocta"と"zepto"は、Milton Bradleyによる極めてディープな初期の探求を思い起こさせる重心低めのダビーなプロダクションだ。 拡張的なアルバムとなった本作の締めくくりとして、アンビエントCDが9月にリリース予定となっている。本作でキーとなっているサウンドが多数使用され、同系統の作品を数曲と、よりスペーシーに仕上げた"yocta"の別バージョンが収録される。そして「after and before」での"after and before"と"now and then"を含む10曲のトラックが収められているものの、トータルの長さはたったの25分という簡潔でメロウなもうひとつの音旅行が広がっている。徹底的にこだわり抜いたディテールと様々な影響が今回のアルバムには注ぎ込まれ、直球トラックから、よりアブストラクトな路線まで、等しく吸い込まれるような魅力を持つ作品に仕上がっている。『all in all』のように意欲的な試みこそ、テクノが必要とするものなのではないだろうか。
  • Tracklist
      01. after and before 02. tomorrow was yesterday 03. now and then 04. now is ever 05. XXXIII 06. XI 07. XLIV for Mike 08. XXII 09. hecto 10. yotta 11. yocta 12. zepto