Yoshinori Hayashi - The End Of The Edge

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  • ある特定のタイプのダンスミュージックで「我を忘れること」について語る時、それは得てして緩やかな陶酔性を指していることが多い。繰り返されるパターンの中でサウンドが整然と混ざり合えば、意識や身体の動きを意のままに操ることが可能だ。『The End Of The Edge』もそんな1枚として語ることのできる濃密で想像力に富んだEPだが、リスナーには音に対する服従以上のものを求めている。Yoshinori Hayashiのデビュー作はスタジオ機材、生楽器、くすんだジャズレコード、そして、スマートにカットされた膨大なサウンドを複雑につぎはぎし、柔らかく魅力的なテクスチャーを生んでいる。しかし、そのアレンジメントは一貫して掻き乱され、押し潰され、毛羽立てられ、そして、つねられている。つまり、ずっと同じ状態のものは一切無いということだ。 落ち着きなく流れるように変化する動きにより、「The End Of The Edge』は未踏の領域を徘徊しながら驚異的なサウンドに至っている。"Madam Moo"は自然の音を伴った豊かなトラックだ。ディープなベースパッドや不規則なパーカッションによりパノラマ望遠鏡で眺めたような楽曲を生み出そうとしている。サックスによって感情の起伏をつけているが、その感情がどのようなものかを特定するのは難しく、悲しく聞こえる時もあれば、思慕しているような時、さらには希望に満ちて聞こえる時もある。"Madam Moo"と一緒にAサイドに収録された"Geckos"は、リスナーをデチューンされたキーボードによるブルージーな静寂へと引き込む気だるいチューンだ。古いバーの閉店時にこのトラックを耳にしている光景を想像できる。 「The End Of The Edge」は単にリスナーの意識だけでなく、労力さえも求めてくる。"A Castle"では、聖歌隊の声と徐々に忍び寄ってくるベースによる分厚い音の波の中で粒立ちの荒いストリングスが水浴びをしており、その名に違わぬミステリアスなトラックだ。使われているキックは締りがなくぎこちない。船というよりも浮きのように機能しており、ある地点から別の場所にリスナーを滑り込ませようとしているのではなく、全体的に漂わせる感覚を保とうとしている。比較して語るのであれば、本作で最もDJフレンドリーなトラックは"Carcass Of Tags"だ。フィンガードラムによるパーカッションがジグザグなシンセとカット&ペーストしたジャズのサンプル上に広大に散りばめられたこのトラックは、『The End Of The Edge』で最もしっかりとした形を成している。しかし、リスナーが音の中へと沈みこもうとすると、トラックはすぐさま形を変えてしまう。新たに音が加わるたびに次のように疑問が投げかけられる。「我を忘れたか? 何かを見つけられたか?」と。
  • Tracklist
      A1 Geckos A2 Madam Moo B1 A Castle B2 Carcass Of Tags