DJ Koze - DJ-Kicks

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  • DJ Kozeのような存在は他にはいない。何年もの間、Stefan Kozalla(DJ Koze)はヒップホップ、ハウス、ポップを軽々と行き来しながら、サイケデリックかつ奇抜で、とびきり機能的なサウンドを構築してきた。オリジナルトラックであれ、高い評価を集めるリミックスであれ、Kozallaが手掛けた作品は大抵、聞いた瞬間に彼の手によるものだと分かる。今回の記念すべき50作目となる『DJ-Kicks』においては特にそうで、さらに、!K7が手掛けるミックスシリーズである『DJ-Kicks』の元来のミッションである「クラブセットではなくホームリスニング用のサウンドを提供する」という点も成し遂げている。本作はDJミックスというよりもプレイリストと言うにふさわしい。しかし、Kozallaは収録曲の多くをエディットしており(そのほとんどは微妙な差異だが)、非常に異なり合った選曲をしていながら驚くほどの類似性を生み出している。そして、全編に渡って彼にしか成し得ない奇抜な感覚が注ぎ込まれている。 ミックスはまずKozeのオリジナルトラック"I Haven't Been Everywhere But It's On My List"からスタートする。期待通りの奇抜なトラックで、滑稽なスポークンワードによってKozeワールドへと誘われる。以降、ミックスを聞き進めていくにつれ、本当に様々なアーティストのトラックが使われているのか? と思いたくなってくる。Kozallaは自身の奇抜な音楽観にぴったりとハマるトラックを選ぶ術を知っている。cLOUDDEADのキマリまくったラップによるララバイ"Dead Dogs Two (Boards Of Canada Remix)"は、Kozallaの酩酊したスタイルにそっくりだ。そして、Madlibによるインストトラック"Shame"は薄気味悪いほどKozallaの初期作品に似たサウンドだ。その後、Mndsgnの"Camelblues"をKozalla自らエディットしたトラックが続く。LAのビートシーンという完全に異なる系統から生まれたヒップホップチューンだ。しかし、その先駆的存在であるMadlibのトラックの隣に上手く収まっており、異なる点と点を結ぶというKozallaの得意技がここにも表れている。時折、Kozallaはパステルカラーを追加してミックスに陰影を付けたり、エッジをぼかしたりしながら、さらに密接にトラックを繋ぎ合わせている。その処理が非常に丁寧であるため、どこで原曲が終了して彼のエディットが始まっているのか分からない。 『DJ-Kicks』シリーズは当初の野太いヒップホップから、徐々にハウストラックを完ぺきにミックスするサウンドに変わってきた。ところが、今回のミックスでは、BroadcastやWilliam Shatner(そう、俳優のWilliam Shatnerだ)らによる殺伐としたトラックによって印象派の絵画のような中盤戦へと溶け込んでいくと、ヒップホップとハウスの真ん中に位置するミックスをすることで、最大限にインパクトが生み出されている。Shatnerによるあまりにも有名なスポークンワード(そして、Ben Foldsによる瑞々しいストリングスの伴奏)は、実はKozalla自身の狂ったスタイルと全く変わらないことが分かる。さらに言えば、本作の決定的な瞬間はこの琴線の触れる"It Hasn't Happened Yet"かもしれない。非常に突飛でびっくりするほど悲痛なトラックだが、トラック単体で聞いていたらおそらく味わえないであろう一縷の感情が、このミックスでは引き出されている。 Kozallaは彼のスタジオアルバムと同様、個性的で重要なミックスを生み出すアーティストだ(『All People Is My Friends』、もしくは、彼のおどけたミックスが聞けるFACTのポッドキャスト(英語サイト)をチェックしてみてほしい)。そして、彼のほとんどのアルバムと同様、今回の『DJ-Kicks』も独特で他とは異なっており、従来のようなミックスであることはほとんどなく、一般的なDJミックスに期待するようなスムーズな流れのようなものも少ない。本作は、DJであるということはダンスフロアを相手にするだけではないということを思い出させてくれる。むしろ、誰にもできない方法で新旧の音楽を繋ぎ合せてリスナーに紹介していると言った方がいい。その技巧においてユニークなミックスを見い出すことこそ、シリーズが始まった当初から『DJ-Kicks』が続けていることだ。そして、Kozallaによる50番目のミックスは、この伝統に則る以上のことを成し遂げている。
  • Tracklist
      01. DJ Koze - I Haven't Been Everywhere But It's On My List (DJ-Kicks Exclusive) 02. Dimlite - Can't Get Used To Those? (Kosi Edit) / Efdemin - Ohara 03. cLOUDDEAD - Dead Dogs Two (Boards Of Canada Remix) 04. Strong Arm Steady - Best Of Times (Instrumental) 05. Homeboy Sandman - Holiday (Kosi & Fink's Edit) 06. Freddie Gibbs & Madlib - Shame (Instrumental) 07. Mndsgn - Camelblues (Kosi Edit) 08. Broadcast - Tears In The Typing Pool 09. Daniel Lanois - Carla 10. Hi-Tek / The 2 Bears - Come Get It (Tekstrumental) / Modern Family (Kosi Kos Mélange) 11. William Shatner - It Hasn't Happened Yet 12. Marker Starling - In Stride 13. Session Victim - Hyuwee (DJ Koze Remix) 14. Frank & Tony - Bring The Sun feat. Gry (Kosi Edit) 15. Marcel Fengler - Jaz (Kosi Edit) 16. Portable feat. Lcio - Surrender (Kosi Edit) 17. The Gentle People - Superstar
RA