Keita Sano - Holding New Cards

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  • 「完ぺきなレコード」について話をする時に口にされるのは、大抵、すべてが適切に処理されたものだろう。プロダクションは洗練されていて、バランスも正しく、アーティストとしての主張も見事に表現されている、そういう作品だ。Keita Sanoによる『Holding New Cards』には、そうした要素は一切無い。要素を詰め込み過ぎており、スタイル面では周囲から浮いてしまうほど変化が多く、落ち着きが無く奇妙だ。Sanoに関して最もエキサイティングなことと言えば多様性である。しかし、その多様性はEP上に断片として散りばめて提示されることがほとんどで、ざらついたテクノがあるかと思えば、色彩豊かなハウスが収録されていたりする。しかし、『Holding New Cards』では、彼の多様性がすべてひとつの場所に集まっている。その結果、本作は、ワイルドなまでに多作な日本の若きプロデューサーである彼が、何故こんなにもスリリングであるのか、という謎に迫ることができるアルバムに仕上がっている。 Sanoは他のプロデューサーがやりそうもないことをやってのける。例えば厄介なタイトルが付けられた"Everybody Does It"では、シンセホーンや擦りつけるようなフィードバックが、がっしりとサイドチェインをかけたベースラインによって、ミックスの奥で膨張している。このトラックはハウスでも、テクノでも、ベースでも、その他に思いつく如何なるジャンルでもなく、客観的な感覚で見た時、機能するかどうかさえ定かではない。しかし、Sanoの熱烈な姿勢が伝わってくる。一方、その他のトラックでは調子が抑えられているが、目の眩むような感覚は全く無くなっていない。例えば、"Fake Blood"ではセンチメンタルなメロディが渦巻く空間が朦朧とする不協音のラッシュによって取り囲まれている。"Holding Ne Cards"は、L.I.E.S.のEPを3、4枚組み合わせたようなキケンかつ壮大でどろどろとしたスローモーションテクノで、"Onion Slice"は色とりどりのガラス越しに奏でられるUKハードコアチューンだ。"African Blue"には最新のCPUさえ許容オーバーになりそうな程のドラムが使われている。このアルバムを初めて聞く時、次にどんなトラックがやってくるのか検討が付かない。さらに繰り返し聞いている時でさえ、その衝撃は弱まることがない。 とはいえ、『Holding New Cards』の後半には数曲、分かりやすいトラックが忍ばされている。"Escape To Bronx"と"Insomnia"は頑ななまでにノイジーだが、共に12インチとしてリリースしてもいいくらい精巧に作り上げられたアシッドトラックだ。そして、やはりここにも鮮烈な輝きがある。特に"Insomnia"では、実質、ドラムサウンドがミックスの中でトラックを切り裂いている。それと同時に、Sanoが彼のアプローチを非常に微細に調整しているのが感じられる。おそらく、こうしたトラックはSanoの音楽に落ち着いた一面があることを示唆しており、今後、様々なスタイルを試しながら自分にあったスタイルを探すのではなく、ひとつのスタイルの中で自分のアプローチを高めていこうとしていることを思わせる。しかし、その間、彼よりも夢中にさせられる新たなプロデューサーを探すのは困難を極めるだろう。
  • Tracklist
      01. Fake Blood 02. Onion Slice 03. Ends How It Ends 04. Everybody Does It 05. Search 06. Holding New Cards 07. Happiness 08. He Can Only Holder Her 09. Escape To Bronx 10. Insomnia 11. African Blue
RA